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「……ひい姉。」
少し気まずそうに、ひよりの隣に座っていたかえでは細々と姉の名前を呼んだ。
2人がきちんと会うのは、恐らくあの楽屋以来だ。
"…俺はひい姉と一緒にいたくない…っ"
眉を顰めて俯きがちに、唇をきゅ、と結んだかえでは、あの言葉を弁解しようにも何をどう言えばいいのかと躊躇しているようだった。
するとひよりは立ち上がって、ソファに座るかえでの前にしゃがみこんだ。
「…かえで。
かえでが嫌がっても、私はかえでと居たい。」
「っ」
「…鬱陶しくてごめんね。でも、お姉ちゃん、かえでが居てくれるだけで幸せなの。
かえでと、一緒にご飯が食べられたら、それだけで嬉しい。」
少し震える高い声は、弟に真っ直ぐに向かっていた。
「…俺、邪魔じゃない?」
「…え?」
「ひい姉が、働きながら勉強もして、大変そうだったの見てたから。また、ひい姉が無理するのは嫌だ…っ、だから、俺…っ」
「…それであの時も今回も、離れて暮らすのを了承したの…?」
俯くかえでの頭を、ひよりが優しく撫でた。
「かえで、私、こんなんだから、いっぱいこれからも失敗するし頼りないと思う。
でもそれも全部傍でかえでに見ててほしい。たまに本当に躓いてたら、助けてほしい。
ごめんね、格好良いお姉ちゃんじゃなくて。
だけど、兄弟ってそういうものかなって、思うの。
助けて、助けられて、そうやってかえでと過ごしたい。
そばにいてくれる…?」
ぎゅう、と抱きしめるひよりの腕の中で、かえではやっと大粒の涙を溢した。
「しょうがないなあ…っ」
ひよりの背中に回る小さな手は、もう震えていなかった。
「…なんも心配無かったな。」
そう呟く潮音さんに、俺はふと笑う。
柄にもなく、心から良かったと、ずっとこの2人を見ていたいと、思ってしまった。
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