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キェー キェー 肉食の鳥が、獲物を嗅ぎ付けた時の叫びをあげている。
俺は、自分の背丈程もある刀の柄を強く握る。その手の震えは恐怖によるものではない。勝負は一瞬でつく。その瞬間を逃さぬよう、意思よりも早く動くための震えだ。
目を閉じると、風に揺れる草木のざわめきが消える。代わりに、心音とわずかな呼吸音だけが聴こえてくる。
ヒューーー
一輪の風が吹き抜ける。いや、吹き抜けようとした。その瞬間、俺は刀を抜き、風を払うように切る。
やはり、一瞬だった。
ドサリ
それ は、俺の足元に崩れ落ちた。翼を広げると2メートルもあるこの鳥こそ、『渓谷のかまいたち』と恐れられている怪鳥だ。
怪鳥を背負い、村へと戻る。村中の人々が俺の帰りを喜んだ。このところ村人を不安にさせていた怪鳥を退治したのだ。今夜は宴になるだろう。
いや、宴になる。俺はそう知っているのだ。そして平穏も束の間、明日には新たな獣の大群がこの村を襲う。
帝国に反発するこの村を黙らせる為に、軍の兵器として飼い慣らされた獣が差し向けられるのだ。
それを、一人で一蹴した俺は、その足で帝国軍へ刀一本で乗り込むのだ。
知っている。知っているのだ。何度も攻略方法をネットで調べたから。
ゲーム機とパソコンしかない、閉めきった三畳間。そこで、最新のゲームのリアルなグラフィックと音を堪能していた俺は、いつの間にかこの世界に入り込んでいた。
子供の頃から、運動も勉強も苦手でいじめられっこだった俺。ずっとゲームだけが生き甲斐だった。ゲームの中なら、いつも俺は勇敢で、強い。
大人になっても、相変わらずゲームばかり。仕事や恋愛なんて、最低限でいいってずっと思ってた。
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