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ここまで長かった。狼の大群を一人で蹴散らし、まる一日走って軍事拠点に来た。多勢に無勢の兵と闘いながらたどり着いた鉄の扉の前。
空腹を我慢するのもそろそろ限界だ。でも、そんな我慢ももう一息。目の前の錆びた扉の先で全てが終わる。
重厚そうな扉だが、手をかけると意外に軽く開いたら。
扉の先、そこはまさしく“ラスボス”の空間だ。ゆらぐ蝋燭の炎。暗く広い部屋のまん中で、総司令官は背を向け座禅を組んでいる。
世界への不満と理想の世界について語り、俺に仲間になれと誘ってきた。更には、従えば村長の娘だけは生かしてやろう等と条件を出してくる。
全ての話に首を横に振ったら、総司令官が立ち上がり、こちらを向いた。そこにいるのは、驚くことに俺の師匠だ。
いや、驚かない。俺は知っていたのだ、ラスボスである総司令官の正体が師匠だと。
「こんな、ゲームのような腐った世界は、我が変えよう。」
師匠が刀を抜く。
「世界はゲームじゃない。世界はゲームより素晴らしい。」
続いて俺も刀を抜いた。
対峙する2つの切っ先が触れるか触れないかのところで、互いにピタリと止まる。時が止まったかのように無音。はたまた、時だけが流れているかのような静寂。
一瞬、師匠の刀が揺れる。
ジジジ
いや、蝋燭の炎が揺らいだだけだとすぐに気づく。
ギシッ
同時に床がきしんだ。その刹那
空を切る音もなく師匠の刀が迫っている。まるで、空気の隙間を刀身が真っ直ぐすり抜けてくるようだ。
ジャギン
無意識の反応より更に早く、俺は寸でで払いのけた。師匠が柄を握り直し、刀を返す。その僅かな一瞬で、俺は踏み込む。
俺の刀が師匠へと突き進む。
完璧なタイミング、確実な踏み込み、寸分の狂いもない刀の軌道。
捉えた。
そう確信した俺の刀は、師匠の腹部に向かって風のように突き進む。
ドタドタ ガラガラ
「パパー、ご飯だってー。」
「おー、瑞希。」
「パパ、今日はゲームはじゃなくて みずき と遊んでよー。」
俺は左手でコントローラーを握ったまま、右手で瑞希を抱き上げる。
画面では、返り血を浴びながら、師匠が高笑いをしている ~game over ~ に続いて ~コンテニュー?~ と表示された。
俺は、✕ ボタンを押して、コントローラーを投げ捨てると、瑞希を抱き上げたまま、三畳間を出た。
廊下には、キッチンから漏れたカレーライスの美味しそうな匂いが立ち込めていた。
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