6. 快の芽生え

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6. 快の芽生え

「アイダさん…私を描いてみたいと思います?」  こんなに綺麗に描いてくれるなら、脱いでもいい。本気でそう思い質問する。 「どうだろう。」アイダさんは首を傾げる。 「私は成長しちゃっているから、ダメなんですか?」 「ううん。環ちゃんは、まだ成長途中だし、とても綺麗な顔と骨格をしている。モデルとしては最上級だよ。」  先ほどの視線は、骨格を確認していたんだ…。私の勘は外れていなかった。 「じゃあ、どうして迷うんですか?」 「叔父(小沢)さんの店が好きなんだ。環ちゃんがモデルをすると、描いている間に興奮して、抱いてしまうかもしれない。」  興奮して、抱いてしまうかもしれない…。  その言葉に身体中がゾワゾワっとした。  海霧を全身に浴びたような感覚…。多分、私は嬉しいんだと思う。 「抱いたらダメなんですか?」 「…ダメ。俺、結婚しているし、子供もいる。叔父(小沢)さんに申し訳ない。」 「でも、モデルを抱くことはあるんですね?」 「はい。あります。ごめんなさい。」 「大丈夫。私は許します。」  戸惑うアイダさんに、私は抱きついた。  自分でもなぜこんな事をするのか…全くもって意味不明だ。  アイダさんは、きっと世間的にはがつくほどの変態だと思う。  だけど彼の作品と一緒で凄く魅力的なのだ。  そう思う私も変態なのかもしれない。 「有難う。でも2度とここには来ないで欲しい。」  私を抱きしめ返しながら、アイダさんは言う。 「どうして?」 「絵を描く事が好きなんだ。環ちゃんと会っているのがバレたら捕まるかもしれない。」 「臆病者…!」  アイダさんの頬に、罰するかのようにキスをする。  抱きしめる力が強くなる…。今、アイダさんは私が欲しいのだろう。  歯を食いしばって、グッと堪えている…。そんなアイダさんは、とても可愛い。  男性と寝るどころか…キスした事もない私がこんなに冷静にいられるのは、アイダさんが描いた手足のない美少女の絵を見たからだ。  美少女と見つめ合ったあの数分で、私の貞操観念は粉々に破壊されてしまった。男性と寝る以上の性体験をしてしまったのだ。  私がおかしくなったのは、アイダさんのせいだ…。  抱きしめる力を強くする。 「もう帰ってくれ…。さっき酒飲んだから、送っていけないけど。ごめんなさい。」  アイダさんは謝りながら、すっと私を引き離す。  だけど、名残惜しそうに私を見ている。  私から唇にキスをしたら、アイダさんは我慢できずに私を抱くかもしれない。  体毛が濃い中年の肌を晒して、必死で裸の私を抱く姿を想像すると、再び冷たい海霧を浴びたような感覚に襲われる。  やっぱり…アイダさんは可愛い。 「わかりました。帰ります。私、誰にも言いませんから。」  そう言って、カッパをつかんで私は外に出た。  海霧はいつの間にか霧雨に変わっている。  カッパは着ずミストサウナに入る感覚で、上を向き霧雨で火照った顔を冷やす。  自宅までの数キロをびしょ濡れで夢中で歩き、翌日は高熱を出して寝込んでしまった。  私は、正気を失うくらい、初めて味わった快感に酔いしれたのだ。
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