5. エロス + グロテスク

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5. エロス + グロテスク

 翌年8月の初旬、アイダさんは「ノンノ」に現れなかった。  高3の夏…、東京の大学を受験するのは既に決めていた。 「一度は上京したい。せめて大学の間だけでも…。」  かつて東京に住んでいた両親は、すんなり私の望みを受け入れてくれた。  今年を逃したら、もうアイダさんには2度と会えない。  絶望的な気持ちになっていた、8月の2回目の週末…、アイダさんは開店と同時に現れた。 「環ちゃん、久しぶり。」  名前を覚えていてくれた!  嬉しい!こんな高揚感味わった事がない…。    もしかしたら、私はアイダさんが好きなのかもしれない。  20歳以上も年上なのに…。  叔父が他の客と話している隙を見て、アイダさんに話しかけに行く。 「アイダさん、約束覚えていますか?」 「え?約束…?」  アイダさんは素っ頓狂(とんきょう)な顔をする。ちょっとがっかりだ…。 「絵を見せてくれる約束です。」 「ああ、環ちゃんにはバレたんだっけ。誰にも言わないのを約束出来るなら、いつでもいいよ。」  お茶目に言うアイダさんは、世間では人気の画家とだろう…と思わせる独特なオーラを放つ。  ネットで検索しても、アイダさんの情報が出てこないのは、おそらく偽名を使っているんだろう。 「じゃあ、今日バイトが終わったら行きます。4時頃でどうですか?」 「ああ、いいよ。迎えに来ようか?」 「大丈夫です。歩いて行きます。」 「さすが、道産子だな。元気だね。」とアイダさんは笑い、嬉しそうにコーヒーを飲む。  バイトが終わる頃、1メートル先が真っ白になるくらい、例の海霧が発生した。  傘はささず簡易カッパを着て、海霧をすり抜け小屋に向かう。  小屋の前はアイダさんの車が停まっており、中はランタンで明かりがついている。  高鳴る胸を鎮めるため、数回深呼吸をしてからドアをノックする。
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