5. エロス + グロテスク

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「いらっしゃい。」  アイダさんはドアを開ける。少しお酒の匂いがする。  …もう飲んでいるのかもしれない。 「お邪魔します。」とカッパを脱ぎ半袖になる。  二の腕にアイダさんの目線を感じた。でも、それはイヤらしいものではない気がする。芸術家として、私の腕の構造を確認しているのかも…。 「絵は見れるように用意しているよ。どうぞ。」  アイダさんの手が示す先には、4枚のキャンパスがある。  4枚ともすごく大きな絵だった。前に見た畳一枚の絵の2倍近くある。 「厳選してくれたんですか?」  忍び込んだ時には、もっと多くのキャンパスがあったような気がする。 「うーん。先週、札幌で個展をやったんだ。そしたら結構売れちゃってさ。今はこれしかないんだよ。」  1年前に見た手足のない美少女の絵はない。売れてしまったのだろうか?  あの絵には敵わないが、4枚の絵もかなりクレイジーっぽい。  展示用だったらしく、まだ絵のタイトルのタグがついている。 『帰りたい滝』  大きな滝を20人くらいの美少女が渡っている。  美少女の服装はセーラー服、スクール水着、全裸と様々だ。 「この滝って知床ですか?」 「うん。オシンコシンの滝…。ここから車で30分くらいで行けるよ。」  よく見ると、確かにオシンコシンの滝だ…。  美少女に気をとられてしまったが、滝は完璧に再現されている。 『幸せな瞬間』  幼女が父親とお風呂に入っている構図。幼女の顔と体は描かれているが、父親が足のみだ。ツルツルでピカピカの幼女にすね毛だらけの足…。  一見、平和な絵だがよく考えると、とても気持ちが悪い。 『ノンノ』  異常にカラフルな5人の美少女が走っている。  顔は笑顔だが、胴体や足が引きちぎられ、傷口からは血ではなく、花びらが飛び散っている。 「ノンノってアイヌ語で花って意味なんですよね?花びらが出ているから、ノンノ?」 「そう。叔父さんにノンノの由来を聞いて、タイトルを決めたんだ。」  多分、叔父は喜ばない…。そう思ったが、言わなかった。  そして4枚目の作品は、想像を絶するほどグロい…。 『ラブ・ジュース』    微笑みを浮かべる全裸の若い女性数百人が…巨大ミキサーの中で、液化されようとしている…。  異常な設定だが、写真みたいに鮮明に描かれている…。    言葉を失っていると、アイダさんは「これは、かなり昔に描いたんだ。本当はミキサーの中に、人類の全女性、約18億人を入れたかったんだけど…。」と言った。 「どうやったら…こんなアイディアが浮かぶんですか?」率直に思ったことを質問する。 「思春期の少年なら、変態や残虐性はなくとも、このようなイメージを浮かべる奴は多いと思うよ。特に珍しい事じゃない。ただ、実際に描くのは大変だったけど。」  別に褒めているわけじゃないのに、アイダさんは恐縮し照れながら答える…。
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