74人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「いらっしゃい。」
アイダさんはドアを開ける。少しお酒の匂いがする。
…もう飲んでいるのかもしれない。
「お邪魔します。」とカッパを脱ぎ半袖になる。
二の腕にアイダさんの目線を感じた。でも、それはイヤらしいものではない気がする。芸術家として、私の腕の構造を確認しているのかも…。
「絵は見れるように用意しているよ。どうぞ。」
アイダさんの手が示す先には、4枚のキャンパスがある。
4枚ともすごく大きな絵だった。前に見た畳一枚の絵の2倍近くある。
「厳選してくれたんですか?」
忍び込んだ時には、もっと多くのキャンパスがあったような気がする。
「うーん。先週、札幌で個展をやったんだ。そしたら結構売れちゃってさ。今はこれしかないんだよ。」
1年前に見た手足のない美少女の絵はない。売れてしまったのだろうか?
あの絵には敵わないが、4枚の絵もかなりクレイジーっぽい。
展示用だったらしく、まだ絵のタイトルのタグがついている。
『帰りたい滝』
大きな滝を20人くらいの美少女が渡っている。
美少女の服装はセーラー服、スクール水着、全裸と様々だ。
「この滝って知床ですか?」
「うん。オシンコシンの滝…。ここから車で30分くらいで行けるよ。」
よく見ると、確かにオシンコシンの滝だ…。
美少女に気をとられてしまったが、滝は完璧に再現されている。
『幸せな瞬間』
幼女が父親とお風呂に入っている構図。幼女の顔と体は描かれているが、父親が足のみだ。ツルツルでピカピカの幼女にすね毛だらけの足…。
一見、平和な絵だがよく考えると、とても気持ちが悪い。
『ノンノ』
異常にカラフルな5人の美少女が走っている。
顔は笑顔だが、胴体や足が引きちぎられ、傷口からは血ではなく、花びらが飛び散っている。
「ノンノってアイヌ語で花って意味なんですよね?花びらが出ているから、ノンノ?」
「そう。叔父さんにノンノの由来を聞いて、タイトルを決めたんだ。」
多分、叔父は喜ばない…。そう思ったが、言わなかった。
そして4枚目の作品は、想像を絶するほどグロい…。
『ラブ・ジュース』
微笑みを浮かべる全裸の若い女性数百人が…巨大ミキサーの中で、液化されようとしている…。
異常な設定だが、写真みたいに鮮明に描かれている…。
言葉を失っていると、アイダさんは「これは、かなり昔に描いたんだ。本当はミキサーの中に、人類の全女性、約18億人を入れたかったんだけど…。」と言った。
「どうやったら…こんなアイディアが浮かぶんですか?」率直に思ったことを質問する。
「思春期の少年なら、変態や残虐性はなくとも、このようなイメージを浮かべる奴は多いと思うよ。特に珍しい事じゃない。ただ、実際に描くのは大変だったけど。」
別に褒めているわけじゃないのに、アイダさんは恐縮し照れながら答える…。
最初のコメントを投稿しよう!