たかが高校入学式だ

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たかが高校入学式だ

ドッキ、ドッキ、ドッキ、ドッキ うるさい。心臓の音が外部にも聞こえるんじゃないかってくらいに鳴っている。 これが昨日の夜からだ、身が持たない。 たかが高校入学式だ、そんなに緊張することはないなんでフレーズは聞き飽きていた。 俺は今、散り桜に囲まれた通学路を歩いており、目の前には入学式の看板が立つ校舎が見えてくる。 男子は学ラン、女子は今どき珍しい紺サージに赤いリボンのセーラー服。両性の左胸に刺繍された桜のエンブレム。それがここ、『桜山高等学校』のシンボルだ。 高鳴る胸を抑えつつ、とうとう校門の内側に足を踏み入れた。 と同時に肩に小さな衝撃が走る。 「す、すみません」 右下を見ると、そこにはこの学校のセーラー服を見に纏った少女が俺を見上げている。 背丈は丁度俺の方くらい、150台前半ってところだ。 くりっと丸い瞳と輪郭、柔らかそうな白い肌に、艶のある黒いお嬢様結びを、春風がそっと仰いでいた。 そんな彼女の小動物的な愛らしさに、一瞬心を奪われた。 「げが、ない?」 俺の問いかけにビクッと反応した。 「はい、全然全く」 「そうか、よかった…」 「………」 二人の間に沈黙が走る。何か会話、そうだ。 「君、新入生?」 「はい、そうですが」 よし、ビンゴ! 「良かったー、違ってたら先輩にタメ口だったところだよ」 笑顔で、なるべくとっつきやすさを表現する。 その甲斐あってか、彼女にも少し笑みが浮かんできた。 「そうですね」 彼女は俯き言葉を濁す。 「君、名前はなんでいうの?」 「名前?倉木英美香です。あなたは?」 「俺は喜多川健人」 あなたは?にほぼ間髪を入れずに答えた。 「喜多川くんですか、えっと…」 会話が苦手なのか、言葉に詰まる彼女、英美香。 「A BCDE組あるけど、どのクラスになりたい?」 「何組かぁ、うーん」 「じゃ、せーので言おう」 これには彼女も驚いていた、が、 「うん」 「じゃ、せーの!」 「「C組」」 「あっ、」 遠慮がちに口に手を当てる英美香。 「同じクラスになれるといいな」 「そうですね」 そう言って時計に目を向ける。 「そろそろ時間なので、また」 「あ、ああ」 また、と言ってもらえたことに、口元が緩んでいるのが分かる。 徐々に小さくなっていく彼女の後ろ姿を見て確信した。 一目惚れって、本当にあるんだな
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