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我が家は母子家庭だ。父は私が小学三年生のときに亡くなっている。交通事故だった。それから母は働き詰めで私たち姉妹を育ててくれた。あんたたちの結婚資金ぐらい母さんが貯めておいてあげるから、それが母の口癖だ。母子家庭なのを引け目に感じないようにとの心遣いだろう。
「はいはい、母さんには父さんがいるからいいのよ」
その言葉に私たちは皆父の遺影に目を遣った。写真の中の父はいつも笑っている。遺影として飾られている写真は家族旅行で撮ったものだ。最後になってしまった家族旅行。父が亡くなった後、私は度々同じ夢を見た。最後の家族旅行でのバーベキューの夢。夢の中の私はなぜかいつまでたっても小学三年生のまま。両親も姉も当時のままだ。みんな笑顔の素敵な夢。でも夢の中の光景が幸福であればあるほど目覚めた時心の中に大きな氷の塊があるような、しんと冷えた気持ちになるのだった。
「母さんまだ四十二歳でしょ? 再婚考えたっておかしくないって。父さんだってきっと母さんの幸せを願ってるよ」
姉の声で我に返る。その時私はとてもいいことを思い付いた。夕飯の後、そっと姉の部屋の扉をノックする。
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
「ん? どうした?」
すぐに扉が開かれる。私はしーっと人差し指を唇にあて首を傾げる姉を部屋の中に押し込んだ。
「ねね、今日さ、母さんに同窓会のお知らせがきてたの」
私は姉が帰宅する前のやり取りを伝えた。
「へえ、いいじゃん、同窓会」
「でしょ? 出会いとかあるかもしんないしさぁ。でも母さん乗り気じゃないんだよね。三年前にあった同窓会の時はすごい楽しみにしてたのにな」
私の言葉を聞いて姉は「ああ……」と呟く。
「なに、お姉ちゃんなんか知ってるの?」
すると姉は母から聞いたという三年前の同窓会の様子について教えてくれた。
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