2.三年前の同窓会

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2.三年前の同窓会

「あらぁ、みっちゃんじゃない、お久しぶりぃ!」  同窓会の会場をおずおずと見回す路子を見つけ、にこやかに駆け寄ってくるのは……けいちゃんだ! 彼女とは中学三年間同じクラスだった。浅井恵子。結婚して滝川恵子になったはずだ。 「まぁまぁ、けいちゃん変わらないわねぇ」  彼女はブランドもののワンピースをすらりと着こなしていた。路子でも知っている高級ブランドだ。二人でしばらく話に花が咲いた。彼女の夫は実業家で恵子は専業主婦をしており毎日暇を持て余しているという。たまにはランチでもしましょうよ、という恵子に曖昧に頷いた。 「ところでさ、倉橋君のこと聞いた?」  その名を聞いてドキリとする。倉橋亮介、路子にとって忘れられない男性(ひと)だ。当時お互い憎からず想っていた。だが彼は中学三年の途中、受験期だというのに父の仕事の都合でやむを得ず転校することになり路子の前から消えてしまった。 「倉橋君がどうしたって?」  我知らず胸が高鳴るのを感じながら恵子に尋ねる。 「奥さん亡くなって今は独りなんだってさ。クラスでも人気あったよねぇ」  恵子はそう言って会場を見回す。 「でも今日は来ないのかしら」  そう、倉橋亮介はこの会場に現れてはいなかった。実を言うと路子もさっきから彼の姿を探していたのだ。その時、会場の入り口あたりから遅れてすまない、という声が聞こえてきた。あの声は……。 「あ、あれ、倉橋君じゃない? 何だか男っぷりが上がったわねぇ!」  久々に見る彼は昔と変わらぬ優しい笑顔を浮かべていた。女性陣が群がっている。 「やだぁ、倉橋君何か格好良くなったんじゃない?」 「ねぇねぇ、今何やってるの?」 「まぁ、一杯どうぞ」  こうして見てみると同窓会に参加している女性のほとんどがずいぶん豊かな生活をしているようだ。肌もすべすべして見える。路子は自分の荒れた手をそっと見つめた。おそらく毎日パートに出ているのは自分ぐらいだろう。何だか自分がここにいるのがひどく場違いな気がしてきた。 「みっちゃんはさぁ、何か習い事とかしてないの?」 「習い事?」  恵子に声をかけられ我に返る。 「最近周りでパン教室に通うのが流行ってるのよ。まあ、ジムやエステに通う人ももちろん多いんだけどね」 「んー、うちは母子家庭でそんな余裕ないなぁ」  すると恵子は少し気まずい様子で、みっちゃんは偉いわねぇと言うと料理を取りにその場を離れた。 (来るんじゃなかったかな)  その後も他のクラスメイト数人と話したが、母子家庭で毎日パート三昧よ、と言うと皆一様に偉いわね、と褒めつつも気まずそうな表情を浮かべて離れていく。路子は二次会に参加することもなく早々に帰宅した。
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