3.母さんのおめかし

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3.母さんのおめかし

「ってな具合だったらしいのよ。みんなすごく綺麗で肌もすべすべで母さん何だか悲しくなっちゃったって」 「そっかぁ……」  母は何をするにも私たち姉妹を最優先で自分のことは後回し、な人だ。肌のお手入れなんてろくすっぽしちゃいない。 「母さん中学の時好きだった男の人とは話さなかったの? 独身になってたんでしょ?」 「うん、到底話しかける勇気なんて出てこなかったってさ。ああ、あとこんなことも言ってた。当時転校が決まった時、連絡先を聞こうって思ったんだって。ところが……」 「ところが?」  姉はクスクスと笑いながら言う。 「その時運悪く鼻の頭に大きなニキビが出来てて恥ずかしくて話しかけられなかったって」  姉と私は母さんらしいね、と言って笑った。 「お姉ちゃん、その男の人の名前何だっけ」 「クラハシリョウスケって言ってたよ」  姉は空に指で倉橋亮介、と書く。 「うわ、すごっ。何でフルネームで覚えてんのよ。しかも漢字まで」  私が驚いて尋ねると姉は笑った。 「たまたま高校の時の同級生に同姓同名の男子がいたのよ。だからつい漢字まで聞いちゃった」 「なるほどねぇ。でもフルネームで漢字と年齢、出身中学までわかってるなら……」  ふふふ、と笑う私を姉が怪訝そうに見る。 「調べられそうじゃない? SNSでさ。で、まだ独身だったら母さん行く気になるかも!」  姉は私の言葉に頷くとしばらく何やら考えた後でこう言った。 「でもそれだけじゃダメね。来週ちょうど母さんの誕生日でしょ? 同窓会までまだ三ヶ月あるなら……ちょっといい考えがある」  その日、私たちは夜遅くまで作戦会議を開いた。
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