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鈍ることなく軽やかに動き、一方で速く重い剣を振る。
剣と剣のぶつかる音が、集中している耳に心地よく響いていた。
だが、やはり限界はくるものだ。
「っはぁ、はぁ」
「疲れが見えてきたな」
キッドの動きが、どんどん鈍くなっていっている。
「何でお前は、まだ平気なんだ」
「前に誘拐されたことがあっただろ?あれでオレはスタミナを鍛えなおしたんだ」
ルードスさんの動きにはまだまだキレがある。
どころか、むしろ鋭くなってきている気さえする。
「おかしいだろ!スタミナって、一体どれだけの…」
「大体、240くらいだったはずだ」
に、240ー!?
私80なんだが!?
進化したのに伸びないんだが!?
どうやらスタミナはレベルアップ関係なく、自ら鍛えないと伸びないようだが、それでも240とかフザけとるだろ!?
「まだまだ行くぞ!」
ルードスさんが攻勢に。
「く…!」
キッドが捌ききれていない。
少しずつ、おされていく。
キッドが歯を食い縛って足に力を入れ、少し速度が上がる。
しかしやがて呼吸が乱れ、動きがより鈍くなってきた。
そして、
ドスッ!
「が、はっ」
横腹に避けられなかった剣が思い切り入って、キッドはふらりと倒れた。
「キッド・クレイ・アートイス、気絶!よって、ルードス・ルーア・ライグンツイの勝利です!」
またも観客から拍手が巻き起こる。
いや、ルードスさんが勝つとは思ってたけど、キッドの強さは正直予想外だった。
治療されて帰ってきたキッドをみんなが囲む。
「お疲れさまっす!」
「やるじゃんキッド!」
キッドは目をしばたたかせた後、顔を真っ赤にして「当然だ!」とふんぞり返った。
「第六試合、準決勝二試合目です!」
「八年、トゥーリン・ロイ・レナバーブ対、七年、ダンク・フォン・ナトゥア!」
あ、兄様。
結界の中に二人が入る。
頑張れ兄様ぁー!
「はじめ!」
ダンッ
二人が動いた。
えっと、見えなかったんだけど?
キィン
ガキィン!
剣と剣が、火花が出るんじゃないかと思うほど激しくぶつかり合う。
で、そこから始まったのは。
「うらぁああぁああ!」
「ずえりゃぁあああ!」
技術もクソもあったもんじゃない、防御を捨て去った純粋なるゴリ押し戦。
二人とも、傷を負うのも構わず、ただがむしゃらに剣を振るというめちゃめちゃな戦いだった。
まぁこれはこれで迫力があっていいんだけど。
何というか…ねぇ?
「「うおぉおおぉぉお!」」
ガギィン!
美しさや技術を求める貴族様向けじゃない、と言いますか。
「ダンク!やはりお前とは、こうやって戦うのが一番だぜ!」
「俺もそう思うぞ、トゥーリン!」
「「だぁああぁああぁ!!」」
とうとう、ダンク兄様の剣を受けたトゥーリンが仰向けにどうと倒れた。
「流石だな…お前に力では勝てないぜ…」
「おう!」
そうして二人は、何かが通じ合っているような熱い視線をかわした後、トゥーリンはぱたりと気絶した。
な…何だったんだ、この時間…。
「え、えぇと…トゥーリン・ロイ・レナバーブ、気絶!ダンク・フォン・ナトゥアの勝利です?」
お、おぉお…?みたいな歓声があがる。
今の戦い、すごいのかすごくないのかよく分からない。
とてもハイレベルの戦いを見たような…それでいてとてつもなく低レベルでくだらない戦いを見せられたような…。
本当、なんだったんだろう、この試合。
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