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シーン1
弁護士の事務所
弁護士と荏原が向かい合わせに座っている。
荏原の前にはお茶が置かれている
弁護士は封筒から中の手紙を取り出す
弁護士「先日通知を出した、昭島さんから返信が届きましたので本日お越しいただきました。」
荏原緊張した表情
…………………………………………
弁護士「…という内容でした。」
荏原「まさか…。」
弁護士「……初めは無理矢理関係をもたされたらしいです…。」
荏原「ただの浮気じゃなかったなんて…気づかかなかった…。」
弁護士「その後はこの関係をあなたや店の人間にバラすぞと脅されてズルズル関係を続けさせられたようです。」
(荏原フラッシュバックシーン挿入)
東京のワンルーム、荏原とリオの部屋 深夜
リオはシャワーを浴びて半ズボンのルームウェア姿で部屋に入ってくる
タオルで頭を拭きながら出てくるリオ
荏原はその膝横に目をやる
リオの足には凄く大きいアザが出来ている
荏原「お前、足どうした?」
リオ「えっ?」
荏原「真っ青になってんじゃん!」
リオ「違うの、お店で酔った客が寄りかかってきて、テーブルに足ぶつけちゃったの!」
荏原「ホントか?誰に何かされたんじゃないのか?」
リオ「違うよ、ホントにぶつけただけ。酔っ払いってホントイヤだよね。」
荏原の方を見ずにテレビを見ながらタオルで頭をふいているリオ
納得いってない表情の荏原
(ここからフラッシュバックから戻り弁護士とのシーン再開)
荏原「気づいてやれなかった…。」
弁護士「弁護士としてではなく、一人の人間として見解を言わせて頂くと…。」
荏原「……。」
弁護士「裏切り等ではなく、荏原さんを愛していてたからこそ…一緒には居られなかったのでないでしょうか。」
荏原「それでも…それでも…私は一緒にいたかった…。」
非常に長い沈黙の後
荏原「ありがとうございました。」
荏原席を立ち上がり部屋から出ていこうとする。
弁護士「荏原さん…荏原さんはまだ若いんです。これからいくらでもやり直しがきくはずです。」
荏原は弁護士に一礼して部屋を出ていく。
シーン2
仙台市街地の裏道
荏原は弁護士の帰り
電話で誰かと話している
荏原「…無理矢理そういうことをされたみたい…それでオレとは一緒にいられなくなったって。」
電話からは慰謝料は取らないのか?との話が聞こえてくる
荏原「…何?慰謝料って。今理由話したよね。それを聞いてて何で慰謝料って話になるの?いくら内縁関係だったからって、婚約破棄になったからってあいつから慰謝料取るの?」
荏原「結局金なの?お袋や親父と一緒だよな。金、金って。前は家族同然だのなんだの言っておいて、あいつに慰謝料の請求?そんなこと聞きたくて電話してくんなら二度と電話してくんなよ。」
荏原は電話を切る。
しばらく横を流れる広瀬川の風景を見つめる
荏原「オレは一体何なんだろう…」
タイトル挿入
「プロポーズ」
シーン3
荏原の部屋、ワンルーム(1K)
いかにも独身、一人暮らしの汚い部屋
朝8:30位
カーテンが締め切ってあり、まだ起きてない
寝ている荏原
スマートフォンが鳴っている
スマートフォンの画面
「AM8:30 派遣会社」
荏原スマートフォンに出る
荏原「はい、もしもし…あぁ、すみません。今日は体調が悪いので休ませて下さい。」
スマホ「いつも困るんですよね…」
荏原「すみません、明日は出ますので…はい、すみません。」
荏原電話を切り、スマホの待受を見る
スマホの画面には女性の笑顔
シーン4
仙台市内のスーパー 昼間
荏原は買い物カゴに発泡酒を入れている
惣菜コーナーにくる
アメリカンドッグが売っている
荏原はそれを眺めている
シーン5
太白区柳生の田んぼ道
マンションが見える
荏原はその田んぼ道を発泡酒を飲みながら歩いている
荏原の視線の先にカップルが見える
荏原は視線を凝らす
カップルは荏原とリオ
カップルは仲良く手を繋ぎ歩いている
楽しそうに会話している
荏原はそれを立ちすくみ、ただ呆然と見ている
シーン6
BAR 夜
店内は身なりの良い年配の夫婦やそれなりの人が座ってマスターとの会話を楽しんでいる。
そこへ荏原が来店する。
荏原はすでに飲んで酔っ払っているよう
マスター「いらっしゃい。」
荏原「こんばんは。」
荏原はフラフラと空いてるカウンター席に座る
荏原「マスター、お酒飲ませてよ、金ならあるんだ。」
荏原ポケットからしわくちゃの1000円札を数枚テーブルに置く
荏原「一回言ってみたかったんだよね…アメリカの映画でよくあるじゃん。」
それを見ていた店内の客は一斉にお会計に立つ
お客達は荏原を腫れ物を触るかのように見ながらレジの方へ歩いていく
荏原はその視線に気づいているが、ヘラヘラ笑っている
シーン7
BARの店内
マスター「ありがとうございました!」
お客さん達をドアまで見送る
カウンターへ戻りながら
マスター「飲んでるのか?」
荏原「全然…ビールだけだよ。」
マスター「…仕事は?」
荏原「…今日アメリカンドッグ売っててさ…あいつ好きだったんだ。いつも買ってくれ、買ってくれって。」
荏原「その後、前住んでたマンションの近くを歩いてたら…オレの前を歩いてたんだ。」
マスター「誰が?」
荏原「オレとリオが歩いてんの…オレとリオが手を繋いで歩いてんだよ…。」
マスター「…。」
荏原「オレ何で気づいてやれなかったのかな?…ずっと辛い思いをしてたんだよ。オレが気づいてやってれば…。」
マスター「違うよ。」
荏原「あれからずっと思ってるんだ…。オレが俳優なんか目指してなければ、夢なんか追っかけてなければ、あいつは夜の仕事なんかする必要なかったし、こんな目に合わないで済んだんじゃないかって。あいつを不幸にしてしまったんじゃないかって。」
マスター「もうやらないのか?俳優は…いつまでそうしてるんだ?」
荏原「…。」
マスター「リオちゃんが好きになったお前はそういう人間だったのか?」
荏原「オレは元々こういう人間なんだよ。」
マスター「だらしねぇ弱い人間かもしれないけど、夢に向かって歩いてるお前が好きだったんじゃないのか?」
荏原は何も言えずに黙っている。
マスターはカウンターの中から雑誌を取り出して、荏原の前に乱暴に置く
荏原はそれを見て、マスターに顔を向ける
マスター「お前に丁度いいんじゃないかって思ったんだ。お前が顔を出したら見せようと思って。」
荏原は雑誌に目を落とす
雑誌にはこう書かれてある
「エキストラ募集!仙台で俳優になりたい方、夢を叶えたい方を募集してます!」
「経験者、未経験者問いません!まずはお電話を!」
マスター「お前に飲ませる酒は置いてないよ。」
荏原「マスター…。」
マスター「今日は帰れよ。」
荏原は思い詰めた表情
シーン8
公園のベンチ
天気の良い昼間
雑誌を見ながら発泡酒を飲んでいる
ため息を一つつき、意を決して電話する荏原
荏原「雑誌を見てお電話致しました…はい、エキストラ希望です。」
シーン9
プロダクション面接室
荏原は履歴書を渡し、面接官がそれを読んでいる。
面接官「今は俳優の活動をしてないんですか?」
荏原「今は何もしてません。」
面接官「もったいない、これだけの経験があるのに…メソッドアクティングなんてこっちじゃ誰も知らないですよ?」
荏原「世界に通用する俳優になりたかったんです。」
面接官しばらく考える
面接官「もし良ければエキストラじゃなく、この事務所で演技を教えてみないですか?」
荏原「えっ?」
面接官「私も海外の映画や俳優が好きなんです。そういう役者をこの事務所から出したいと思ってるんです!」
面接官「エキストラなんかじゃなく、荏原さんの経験や知識をこの事務所の若い俳優達に教えてあげてほしいです。」
荏原「はぁ…。」
面接官「是非、お願いしたいです!」
シーン10
事務所ビルの出口
出口から荏原出てくる
手に書類を持っている
改めてその書類を見る荏原
書類には
「業務委託契約書」
「株式会社24プロダクションに業務委託を受け映像演技の講師として演技指導を行なう」
「平成〇年〇月〇日荏原達雄」
ことの成り行きに首を傾げて駅に向かい歩き出す荏原
シーン11
スタジオ
荏原が演技講師として演技を教えている
荏原「時間なので今日の授業はここまでにします。」
生徒達立ち上がり
生徒達「お疲れ様でした!」
荏原「お疲れ様でしたー!」
生徒の一人が荏原に近づいてくる
玲奈「先生、最近慣れてきたね笑」
荏原「そう?」
玲奈「だって最初の頃は私達より先生の方が緊張してたよ?」
荏原「オレは演じる方だけだったから、今でもちゃんと教えられてるのかな?って心配になるよ笑」
玲奈「先生の授業は今まで聞いたことないことばかりだけど、海外の俳優はこんなことしてるんだなって勉強になるし面白いよ。」
荏原「そう言ってもらえると嬉しいよ。」
玲奈「みんな楽しみにしてるし、先生に認めてもらいたいって思ってるよ。私も。」
荏原「大丈夫。オレが教えてるんだから必ずいい役者にしてみせるよ笑」
玲奈「宜しくお願いします笑」
荏原「ちゃんとセリフ覚えてきなよ笑」
玲奈「はーい。」
出ていく玲奈
荏原「慣れてきたかぁ…」
ホワイトボードを消そうと立ち上がる荏原
面接官が荏原の元へ来る
面接官「荏原さん!次回の授業の際に映画監督が見学に来ます。うちの事務所の役者達を見てみたいと連絡がありました!上手くいけば何人かキャスティングしてもらえるかもしれません!」
荏原「本当ですか!?」
面接官「いい面を引き出せるようにお願い致します!」
荏原「はい、分かりました!」
シーン12
部屋でダンボールを漁っている荏原
これまで出演したDVDや台本が入っている
本を持ち上げた時に手紙が落ちる
それを拾い見る荏原
封筒にはこう書かれてある
「たっちゃんへ」
封筒から手紙を取り出して読む荏原
「私はこれまで喘息で学校も休みがちだったし友達も少なかった。演劇や映画、俳優なんて私とは違う世界の話だったし、夢も私にはなかった。」
「だけど、たっちゃんと出会えたおかげで私もたっちゃんと同じ夢を見れるようになった。たっちゃんの夢が私の夢になった。」
「たっちゃんと出会えて本当に良かった。ありがとう、たっちゃん。」
リオを思い出す荏原
スケッチブックを取り出して何かを書き始める
シーン13
スタジオ レッスン場
ハンディカメラを持った映画監督数人が厳しい表情で荏原のレッスンを見ている
シーンをしている生徒やそれを見学している生徒達
荏原「はーい。OK!」
荏原「緊張した?」
生徒1「はい、いつもより緊張しました。」
頷く生徒2
荏原「いつも言ってるけど、緊張してる自分を助けてくれるのは、相手に集中することだから。相手に集中してれば緊張してることすら忘れて身体はフリーになるから。でも良かったよ。」
荏原「プレパレーション(役作り)だけど、シーンに持ち込んじゃダメだよ!シーンに入る時は全て忘れて相手に集中すること!」
荏原「せっかく役作りしたのにって思うでしょ?」
荏原「はい、ユリさん、君の好きな色は何?」
ユリ「赤です。」
荏原「アヤさんは?」
アヤ「黒かなぁ…。」
荏原「セイヤ君、好きな食べ物は?」
セイヤは少し照れながら
セイヤ「ハンバーグです。」
荏原「みんなは自分が自分でいる為に、好きな色は赤で、好きな食べ物はハンバーグでっていつも思ってる?そう言い聞かせながら歩いたりこの授業受けたりしてる?」
首を振る生徒達
荏原「今聞かれたから思い出したんでしょ?好きな色も好きな食べ物も好きな人も全部忘れてみんな普段は生きてる。身体の引き出しにしまってあるんだよ。だからシーン入る時は役作りを全て忘れてシーンに集中すること。そして相手と会話してれば引き出しが勝手に開いて役作りしたものが出てくるから。わかった?」
はい!と返事をする生徒達。
小林「でも先生、シーンの中で会話しろっていうのが自分は理解出来ません…だってセリフがあるのに会話してそこから感情を生むなんて不可能じゃないですか?」
小林は何故か勝ち誇りげな表情
荏原「………お前バカだな。」
小林「はっ?なんですか?突然。」
荏原「救いようのないバカだよ、そんなこともわからねぇのかよ。」
突然嘲り笑うような言い方をする荏原に生徒も監督達も驚く
小林「なんなんですか?一体!人をバカにして!」
荏原「……今、セリフあるのに相手と会話してそこから生まれてくる感情を出すなんて不可能だって言ったよね?」
小林「言いましたけど…。」
荏原は横のカバンからスケッチブックを取り出して開いて生徒達に見せる
荏原「なんて書いてある?小林君読んでみて。」
スケッチブックにはこう書かれてある
「お前バカだな。」
「救いようのないバカだ。そんなこともわからないのか?」
荏原「わかる?今オレが言ったことはセリフだよ。昨日の夜用意したんだ。」
監督も生徒も荏原の言葉に耳をかたむける
荏原「例えセリフだとしても相手に影響を与えることは出来るんだよ。相手にちゃんと伝える、相手にちゃんと話すっていうことをすればね。で、聞いた小林君はムカついたと?」
小林「はい。」
荏原「小林君はセリフであるにも関わらずオレの言葉によって感情が湧き出したわけだ。それはオレの話を聞いてたから。それだけだよ。」
全員がシーンとして話を聞いている
荏原「オレは相手を見ろ!と相手の話を聞けしかいってないけど、段取り芝居する為のセリフの順番を待つために聞けって言ってるんじゃない。相手が自分に何を伝えたいのか?どんな気持ちで言ってるのか?今この瞬間どう思っているのかを見なさい、聞きなさいと言ってるんだよ。日常じゃみんなやってること…役作りをする、それをシーンの前に全て忘れる。そして相手の話を聞く、そうすれば今みたいに自然と感情はわきあがってくるんだよ。それがレペティションっていうテクニックなんだよ。さっき言ったの覚えてる?オレは小林君の引き出しを開けたの…わかるかな?」
生徒達「はいっ。」
荏原「ローマの休日で新人だったオードリー・ヘップバーンは相手役のグレゴリー・ペックに演技についてアドバイスを求めた時にこう答えた…相手の話を聞きなさい、それだけで良いと。ロバート・デ・ニーロはインタビューで、演じるにあたって一番大事なことはなんですか?と質問された時に、演技とは聞くことが全てだ…そう言ったらしい。」
荏原は生徒達を見渡して
荏原「オレはね、誰でも出来るような大人の学芸会みたいな芝居じゃなく、それぞれにしか出来ない本当の演技をしてほしいと思ってる…怒ってるフリ、泣いてるフリそういう外面的なマネは出来るけど、悲しい感情、怒りの感情…感情っていうのはマネ出来ないんだよ。それぞれがそれぞれの感情を使うしかない…ってことはそれぞれにしか出来ない演技があるってこと。一人一人にしか出来ない演技があるからこそ、君たちそれぞれが演じる意味があるんじゃないのかな?」
荏原はニッコリ笑って
荏原「今日のレッスンはここまでにします。お疲れ様でした!」
生徒達「お疲れ様でした!」
荏原「そして、今日見学に来て頂いた監督さん達にありがとうございました!」
生徒達「ありがとうございました!」
レッスン場から出ていく生徒達
後に続いて出ていく監督達
シーン14
同日 レッスン場
ホワイトボードを消す荏原
後ろから面接官がやってくる
面接官「荏原さん!帰りに監督さん達が、何人かキャスティングしたいって言ってました!自然な演技で素晴らしかったって!」
荏原「ホントですか!?」
面接官「そして、監督さん達の俳優育成のレッスンに荏原さんも講師として参加してほしいって仰ってました!」
荏原「オレなんかが…」
面接官「素晴らしい見識をお持ちの先生だから、うちでも教えてほしいって言ってましたよ!」
荏原「…ありがとうございます。」
握手する二人
荏原「ありがとうございます…。」
シーン15
柳生の田んぼ道
荏原が前にカップルを見た道
また発泡酒を持って歩いている
前にカップルが歩いている
荏原とリオ
リオ「お酒臭くなるから、あんまり飲まないでね。」
荏原「わかったよ、控えめにする笑」
リオは振り向いて立ちすくむ荏原を見て微笑みかける。
荏原それを見て微笑み返す
荏原は手に持っていた発泡酒を見て、カップルの方を見ると二人の姿は消えている
荏原発泡酒の中身を捨てて空き缶を袋に入れる
そして夕日に向かってゆっくりと歩いて行く
シーン16
BAR 夜
お客さんはおらずマスターが一人でグラスを磨いている
荏原入店してくる
荏原「こんばんは。」
マスター「おぉ、久しぶり。」
…………………………………………
マスター「じゃあうまくいってるんだな。」
荏原「何とか…マスターや周りのみんなのおかげです。」
マスターは嬉しそうに頷く
荏原「教え子がキャスティングされるって聞いた時に、なんて言うか…子供が巣立ったっていうか…オレは結婚したことも子供も居ないけど…子供が巣立つ時ってこんな感じなのかなっていうか…それが自分の夢だったような…これからもずっと演技と付き合っていきたいっていうか…演技とこれからも一緒にいれるようにプロポーズしたい様な…よく分からない感じです笑」
マスター「酔ってんじゃないのか?笑」
荏原「まだ飲んでません。笑」
マスター「……お前に飲ませたい酒があるんだ。」
マスターニヤリと笑う
笑い返す荏原
荏原「頂きます。」
グラスにお酒を注ぐマスター
グラスのお酒がアップになり
END
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