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異変
コンコン
ノックの音で現実に引き戻される
「なんだ?」
「買い物に行くんだが、何かほしいものはあるか?」
「別にな……いや、煙草買ってきてくれ」
「わかった
もし何かあったらリリアに聞いてくれ」
「そうさせてもらう」
扉を閉め、窓際に戻る
思い返せば、まともに人と会話したのはいつぶりだろう
ここに来るまでは、あれを見るまでは、かなり荒れていたから誰も話したがらないのは当然か
と思っていると、下から車のエンジン音が聞こえてきた
レトロな感じのワゴン車がガレージから出ていくのが見えた
何故だろう、車が離れていくと同時に言いようのない不安が溢れてくる
(なんだ……この感覚
これも花紋病の影響か?
いや、でも、昨日はこんなことは何も
今だって……)
不安は次第に恐怖へと変化し、次々と湧き出る意味のわからない不安は、とどまることを知らない
そのうち、車の姿が見えなくなると痣がこれまでにないほど痛みだした
「アッ、グゥッ……!!
なん、なんだよ…これ?」
心臓を締め付けるような、ギリギリとした痛みに耐えられず、その場に座り込む
(怖い、怖い怖い怖い誰か…誰か)
自分のものではないような思考が、脳内をかけ巡る
『もし何かあったらリリアに聞いてくれ』
「リリア………そうだ、リリア」
ふらつく足取りで、ドアノブに寄りかかり、倒れ込むように扉を開ける
(息が……苦しい、痛い、苦しい、怖い)
呼吸が荒くなり、めまいがして手足がしびれだす
過呼吸を起こし始めているようだ
「落ち……着け、リリアの…リリアのところに行けば……」
壁によりかかりながら進み、階段は手すりに捉まって、ゆっくりと、一段づつ慎重に降りる
そうしている間にも、どんどん症状はひどくなる
「広尾様、どうかなされましたか?」
「リリ……ア、助けて、苦、し…い」
リリアの膝に寄りかかり、蚊のようにか細い声を、必死に絞り出す
「これは、一体どういうことでしょう?
広尾様、何が起きたのですか?」
声を出すのが辛くて、首を横に降ってわからないという意思表示をする
「広尾、落ち着いてください
ゆっくり、深呼吸をしてみてください」
言われた通りに深呼吸をする
「そうです、落ち着いて、ゆっくり
その調子です」
荒れていた呼吸が少し落ち着く
しかし、不安も、恐怖も、苦しさも、痣の痛みもまだ続いていた
「痣…痛い………息…苦し、こ、わい」
状況を説明しようと途切れ途切れながらも話す
「痣……花紋病の影響なのでしょうか?
しかし、こんな症状は聞いたことがありません
悟様が帰ってこられるまで耐えるしかなさそうです
広尾様、がんばりましょう
このリリアも、微力ながらお手伝いいたします
おそらく、過度な不安からくる過換気症候群です
先程と同じように、ゆっくり、落ち着いて深呼吸をしましょう」
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