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鍵の開いている教室を順に調べていく
朽ち果てたロッカーや、机
特に何か気になるものはない
「ん、これはいい武器になりそうだな」
昔忍び込んでいた不良が忘れたのか、錆びた金属バットが落ちている
「広尾、お前が持っておくといい
いざというときのためにな」
「それはいいが、お前はどうするんだ?」
「俺は、大丈夫だ」
「本気か?
死なれると困るんだぞ?」
「あぁ、気にしないでいい」
「言ったな?
俺はもう知らないからな」
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「これは……日記帳?」
机の中に一冊のノートが入っていた
表紙は朽ちているが、かろうじて平仮名で日記帳と書かれているのがわかる
「怪異につながることが書いてあるかもしれない、読んでみよう」
八ノ瀬に促され、ページをめくる
『 月 日
きょうから にっきをかこうとおもいます
ママが まい日つづけれることを作ると
しょうらい りっぱなおとなになれるといっていたからです』
所々かすれて読みにくい部分もあるが、小さな子どもが書いた日記に間違いはなさそうだ
他愛もない日常が綴られていた
両親に愛されている少年の可愛らしい日記だった
しかし、突然ページをめくる広尾の手が止まる
「どうしたんだ?」
「少し、不穏になってきた」
『 月 日
パパとママがけんかをしている
大きなこえでなにかをいいあっている
こわい』
『 月 日
パパが ママをたたいていた
とめようとしたら ぼくもたたかれた
いたくて こわかった』
『 月 日
いたい こわい あつい
パパがたばこの火をぼくの体におしつけた
まだいたい
火 こわい いたい
もうみたくない
ママがぼくをまもってくれようとしたけど
パパはママをおしのけて ママをけった
これいじょうママをきずつけるのはゆるさない』
『 月 日
こわい こわいこわいこわい
火 これいじょういたいのはいや』
ページが千切られなくなっていた
「これは酷いな
おそらく、これは怪異のものだろう
となると、ここにいる怪異は火を恐れるようだな」
冷静に分析する八ノ瀬
ある意味、不気味だがこういう事例に慣れていると言えば合点がいく
『ママ?』
突然聞こえてきた声
驚いてあたりを見回すが誰もいない
『ママ、下だよ』
下を向くと、八ノ瀬と広尾の間にさっきまでいなかったはずの子供がいる
広尾のコートの裾を握っている
おかしい、こんな時間にこんな所に子供がいるはずがない
『やっと迎えに来てくれたんだね、ママ
僕、ずっと寂しかったんだ』
あどけない少年の言葉は、その言葉のあどけなさとは裏腹に、
体の芯まで凍りつくような冷たさを纏っていた
母親にじゃれつく子供のような愛らしい表情も、非常に恐ろしく感じられた
「広尾!離れろ、そいつは怪異だ!」
『うるさい!!
ママから離れるのはお前だ!』
突然、少年の腕が木の枝に変化し、
子供のものとは思えない程の力で、八ノ瀬をはね飛ばした
「八ノ瀬!!」
『ママ、大丈夫だよ
今度こそ僕が守ってあげるから
だから、今度は"裏切らないでね"?』
裾をグッと持たれ、身動きが取りづらい
振り払おうにも、いつの間か足元には低木が絡みついてうまく行かない
気づけば、少年の姿は全身の至る所から白い花が咲いている
見覚えのある花だ
「カルミア……裏切り
裏切られ……た?」
―お母さん……?
嘘……嘘、嫌だ…何で……?
ずっと…一緒だって……何で、裏切り者!!
お母さんの裏切り者!!―
「広尾、火だ!!」
「ハッ!!
そうだ、火だ」
ポケットからライターを取り出す
『!!!!!!!
やめて!』
ライターを見た瞬間、少年…いや、怪異の姿は消えた
「広尾、大丈夫か?
どうしてあの時ボーっとしていた?」
「なんでもない
少し、気が動転しただけだ
お前は大丈夫?」
「あぁ、背中を強く打ったが動けない程ではない
……?
さっきまでこんな紙はあったか?」
足元には、低木の代わりに何枚かの紙が落ちていた
「これは…日記の続きか?」
『 月 日
パパがおうちにかえってこなくなりました
たまにかえってきても ぼくとママをたたいて お金をとっていくだけです
ひどい パパなんか 』
『 月 日
ママがずっといっしょだってちかってくれました
ふたりでがんばろうっていってくれました』
「広尾、どうした
なぜそんな渋い顔をしているんだ?」
「なんでもない
奴がいつ襲ってくるともわからない
何か燃やせるものを探そう」
「そうだな」
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