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ーヒック……ウゥ、ごめんなさい…ごめんなさい…ウゥ‥ヒック…ウウゥー 理科室を出た途端に聞こえてくる誰かのすすり泣く声 さっきの少年ではない 女の泣き声だった 「ここには別の怪異もいるのか?」 「地縛霊のたぐいかもしれないな まぁ、今は関係ないだろう」 ーごめんなさい……裏切ってしまって………ヒック…ウゥごめんなさいー 「裏切る……まさか!!」 何かを思いついたように走り出す 「おい!広尾、どこに行くんだ? 単独行動は危険だ!!」 八ノ瀬の制止も聞かずに、先程の教室まで戻る すすり泣く声はこの中から聞こえてくるようだ (どうやら、俺の予想は正しそうだな) 教室の扉を開ける 中には誰もいない だが、すすり泣く声と、何かがいる気配はある 先程ノートを見つけた机に、ノートの千切れたページと別の紙が置いてあった 『 月  日 ママ    ぼくもそっちにいくね あいにいくね』 『ママ  ママ さみしいよ くらい くるしい  なんで? どうしてママにあえないの? ママ   ママ  むかえにきてくれるってしんじてるから こんどこそ うらぎらないでくれるって     しんじてるから だから   はやく きて』 死してなお、苦しみから解き放たれない苦悩が綴られている 「こっちは……母親の遺書か」 『ごめんなさい、ごめんなさい もう、周りからの視線も、あの人の横暴さにも耐えられない どこにも逃げ場はない 死ぬしかない けど、あの子と一緒に死ぬのはできない 私にはあの子を殺せない ごめんなさい ずっと一緒だって誓ってあげたのに 一緒いられなくてごめんなさい 裏切ってごめんなさい』 「幸せ者じゃないか 死ぬ間際まで思ってくれる母親がいて」 ーもう 疲れたー 白い紙にたった一言そう書かれた遺書 宙に浮く母の体 この母と同じように誓ったはずなのに、何が違ったんだろうか (今は、関係ないな 俺のできることをしよう) 「出てこい、いるんだろう? お前はあの子を裏切って、迎えにも行かずにここでグズって何がしたいんだ?」 『お願い…あの子を壊して あの子はもう……救えないの だめなの、あの子には私の姿が見えないの きっと…私が裏切ったから あの子は私を恨んでるの』 姿の見えないすすり泣く声は、語る 「そう……かもな 本人は自覚がないのかもな 寂しさは人を狂わせる だが、だからといって諦める理由にはならないぞ 届かないなら、俺が届けてやる」 『本当?』 「嘘をつく必要がないだろう あの子を愛しているなら、早く行ってやれ」 気配が消えた きっと迎えに行ったのだろう 「広尾!! ここにいたのか、まったく、単独行動は危険だといっただろう なんで急にここに戻ってきたんだ?」 「それは……!!!!!! 八ノ瀬、後ろだ!!」 開きっぱなしの扉の前に、カルミアの花で包まれた少年がいた
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