差し伸べる手

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「グッ?!?! クッソ、これは…さっきの!!」 木の枝が八ノ瀬の体を掴み持ち上げる 『ママから離れろ お前が…お前がいるせいで…ママは ママは僕を迎えに来てくれないんだ』 全身が凍りつきそうなほどに冷たい憎悪のこもった声 先程のあどけない少年の面影など一切なくなっていた そこにあるのは、寂しさからくる憎悪と、殺意だった 「離せ!! おい、俺はお前に話があるんだ!!」 金属バットで枝を殴る 枝は折れ、八ノ瀬の体は床に落ちた しかし、八ノ瀬の体に巻き付いた枝は緩まないどころか、更に八ノ瀬を締め上げる 「クッソ、どうなってやがる」 『ママ…どうしてそいつをかばうの?』 「俺はお前の親じゃない!! この枝を外せ!! こいつに危害を加えなければお前の親に会える! 話を聞いてくれ!」 「広尾、無駄だ! 怪異に話なんか通じない! はやく、俺のカバンの中にある薬品で奴を…」 「話をしたらすぐにする! それまで待ってろ」 「なぜそこまでして奴と話したがる! 奴を倒せば謎が解けるんだぞ?」 「それは……」 「もういい、事情は後で聞く 今は奴を倒すのが先だ!」 八ノ瀬の左目が一瞬鮮紅色に染まる ベキッ!! 「お前、今何を…?」 一瞬にして枝が粉々になる 「八ノ瀬家に伝わるちょっとした術だ 対怪異用の防御術なんだが……クッ」 左目を押さえて苦しそうな八ノ瀬 「これは…反動が大きいんだ だから、あまり使いたくない だから、早く…広尾今のうちに」 『さっさと死ねばいいのに 次は逃さない』 教室中に木の根が張り巡らされ、カルミアの低木が一気に成長する ザワザワと葉がこすれる音、いつ何が飛び出してきてもわからない 教室に差し込んでいた月明かりが隠され、部屋が暗闇に染まる カチッ 真っ暗な空間に、火による明るさが差す 照らし出された広尾の表情は、怒りを湛えた厳しい表情だった 『!!!!! ママ…どうして?』 八ノ瀬に向けられていた憎悪がこちらに向く その怒りに染まった鋭い眼つきに、体が強張る 恐怖に震える手でライターをしっかり握り直す (あぁ…同じ目だ……あの時の俺と 何もかもが憎くて仕方がなかった、あの時の) 「いい加減に話を聞け 俺はお前の親じゃない お前を親に会わせてやる方法は知っている だが、お前が話を聞かないとなれば別だ 俺達だって死にたくない 容赦なくお前を燃やす」 八ノ瀬のカバンから薬品を取り出す 「今、この状態でこれを撒いて、ライターを落とせば延焼でお前も燃える これ以上八ノ瀬に手を出すならお前を倒す もう一度だけ言う、話を聞け」 『………………わかった』 葉のこすれる音が止む すぐにでも攻撃される心配はなさそうだ 「八ノ瀬、持っておけ 俺は、あいつと話をしてくる ダメそうだったら迷わず燃やせ」 有無を言わせない表情で薬品とライターを渡してくる 返答を考えているうちに、ライターの火が消え再び暗闇になる 広尾が、怪異の方に歩く足音だけが聞こえてきた
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