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「ここにもあるな」
道に近い場所に公衆電話が見えた
M山道休憩場
M山の中腹辺りにある見晴らしのよい休憩場
屋根のついたベンチや、水飲み場などの付近にまたも大量のオレンジ色のユリが生えている
「オレンジ色のユリ、花言葉はたしか……
"憎悪"か」
「だとすると、怪異は何かしらの憎悪を抱いていて、
それを元に元凶となる怪異が力を分け与えた」
「そうなるだろうな
あの電話の内容からすると、憎悪の対象はおそらく、電話に出た相手の好きな奴
または、好きな奴がいると答えた奴
または、その両方だろうな」
「その可能性は高いな
だが、それがわかったとしても問題がある
どうやって怪異を見つけて、どうやって倒すかだ」
「それは皆目検討がつかんな」
「一度、奴の質問に答えてみるのはどうだ?」
「なんて答えるつもりだ?
やつはさっき、「いないならいい」と言って、電話を切りやがった
いると答えてどうなるか…今朝の記事でだいたい予想がつくだろう」
「はぐらかしてみたり、匂わせてみたりはどうだろうか?」
ピロロロロロロロロ!!!!
会話を遮るように鳴り響く呼び出し音
「一応試してみるが、おそらくはっきり答えない限りだめだろうな」
電話ボックスに入りながら、そう漏らす広尾
(もし…これもだめだったら、この怪異を追うには一体どうしたらいいと言うんだ…)
「もしもし?」
『………………またお前か』
「ッ!!……覚えてるのか」
『あぁ、覚えているとも
で、お前……結局、好きな奴はいるのか?』
「いるとも言えるし、いないとも言えるな」
『どっちなんだよ!!!
はっきりしろよぉぉぉ!!!!』
声が響くと同時に、強い悪寒が走る
あたりが異常な冷気に包まれ始め、刺さるような視線がそこら中から二人に向けられる
「広尾」
小声で呼びかける八ノ瀬に向かって、静かに、という意味で口元に指を添える
首を横に振り、あたりの異常な雰囲気に飲まれてはいけないと伝える
「無理だな
本当にそうだからな
さて、お前の質問には答えたぞ
俺のことを覚えているなら、さっきの俺の質問に答えろ」
『何故、何故それを聞く?
お前は…"記者"なのか?』
「……?いいや、俺は警官だ
元だがな」
冷静に、余裕の見える様子で受け答えをしている
電話が切れたのか、広尾が電話ボックスから出てきた
あたりを覆っていた冷気や視線はいつの間にか消えていた
「あの状況でよく冷静に話せるな」
「ああいう輩はな、こっちが怯えているとわかると余計につけこんでくる
おそらく、さっきの寒気や視線も全部怯えさせて、
無理やり質問に答えさせて殺すための脅しだろう」
「警察官としての経験か?」
「まぁそんなところだ」
「それから奴はなんと言っていた?」
「目的はわからずじまいだ
だが、"一年前に起きたM山樹海についての事件を調べろ"と言っていた」
「樹海で起きた事件?
確か、館に犯罪や事件の載った記事のスクラップを保管していたはずだ
頂上付近の方も調べてから、一度帰って調べよう」
「そうだな」
「ところで広尾」
車に向かって歩き出した広尾を呼び止める
「なんだ?」
「さっきの、怪異の質問に対する答え、あれは…」
「ハッタリだよ、ハッタリ
お前の案に乗って言ったんだよ
深い意味はない
ほら、さっさと行くぞ」
「あ、あぁ」
本人はハッタリだというが、あの言葉が何故か胸に引っかかる
何故だろうか?
最近、広尾の行動一つ一つが目につくような気がする
そのたびに、わけのわからない感情が渦巻く
(帰ったらリリアにでも聞くか)
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