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外で激しい言い争いが起きている
広尾さんは必死に有村さんを退かそうとしているようだ
(もしかして…本当に広尾さんはこの事件に…?)
ノイズしか流れない受話器を耳に当てながら、余計な考えを払うように頭を振る
(違う、広尾さんがそんなことをするわけがない
それを証明してみせる
そしたらきっと広尾さんは、僕のことをちゃんと男として、見てくれるようになるはず)
『なぁ…………は…………か?』
「ヒッ?!」
ノイズが突然途切れ、男のボソボソとした声が聞こえてくる
(焦るな、中松
きっと何かしらの合言葉か何かかもしれない)
「い、今なんと?
もう少しはっきり喋ってくれませんか?」
『あんたは…好きな奴は、いるか?』
「は?好きな人、ですか?
まぁ、いるにはいます
片思いですけど」
(って、何真面目に答えてるんだ自分!!
あぁ、でももし合言葉だったとしても、なんて答えたらいいかわからないし
もし間違ってたらどうしよう……)
『そうか……
なぁ…そいつはどんな奴だ?』
「え…えっと…、正義感が強くて、女性なのに僕なんかよりずっとカッコよくて、
風になびく髪がすっごくキレイで……
それで……」
まるで操られているように、つらつらと言葉が出てくる
『ほぅ……羨ましいな
あぁ…………憎いな、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
許さない、殺してやる!!!』
「ヒィィィ!!!」
突然、激しい憎悪の篭った言葉が受話器から大音量で流れる
たまらず受話器を放り投げ、電話ボックスから飛び出そうとする
しかし、有村と広尾はまだ言い争いをしており、有村のせいで扉が開かない
「有村さん!!!どいてください!!
お願いします!そこをどいてください!」
バンバンと強く扉を叩くが、全く聞こえている様子はない
そうしているうちに、首筋に冷たい吐息がかかる
体が硬直して動かない
(怖い、怖い怖い怖い怖い怖い
助けて!!助けてください!)
口を開いても乾いた空気が漏れるだけで、言葉にならない
全身が総毛立ち、奥歯がガチガチと音を立てる
『知ってるか?
好きな奴に裏切られた奴の気持ちが?』
その言葉は、まるで地獄の底に巣食う亡者のような、冷たく、身を切るような激しい憎悪そのもののようだった
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