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「いい加減に……ッッ!!!????」
有村に殴りかかろうとした瞬間、広尾の目が何かを捉え、そのまま凍りつく
「広尾、どうし………ッ?!!」
「二人揃ってなんだい?
やっと諦めたのかい?」
「う…そ、中……松?」
「はぁ?
中松が一体どうしたってんだい?」
「答えたのか…怪異の質問に……」
「そんな…そんなのって……」
「何わけのわからないことを……
ヒィ?!?!」
振り返った有村が甲高い声を上げながら、その場に尻餅をつく
電話ボックスの中で、両手を扉につけ助けを求めるように中松がこちらを見ている
しかし、中松の顔の左半分はオレンジ色のユリに覆われている
その口元は、助けを求めるようにパクパクと動いていた
素早く扉を開けると、中松が倒れ込んできた
「ひ…ろお、さん
僕の…顔どう、なってますか……?」
「い、痛い!グゥ……ッッ、中松、離してくれ」
ギリギリと凍るように冷たい爪が腕に食い込み、ユリに覆われた顔が近づいてくる
その額には真紅のユリの痣が刻まれている
「さっきは無かったのに、そんな……」
目の前で、花紋病の犠牲者が出ている
かつての父と同じ様に
ー 異常なほど濃い花の香り ー
ー 扉を開けた先、ベッドの上の ー
ー 花に覆われた 父と知らない女 ー
「あ……あぁ、う、そだ」
過去のトラウマが蘇り、力が抜けていく
押さえる力が弱まり、中松が一気に
「何をしているんだ、広尾!!」
八ノ瀬が、力づくで広尾と中松を引き離す
「広尾………さん、す……きです
ぼ‥ぼぼ、僕と………番になって……ククク、ください」
虚ろな瞳に、半開きの口
キョンシーのように腕を前に出して、こちらに近づいてくる
「嘘だ……嘘だ、八ノ瀬、どうしたら…」
腕に縋り付きながら、今にも泣き出しそうな声で問う
「どうもできない
可愛そうだが、どうにかして殺してやるしかない
彼のためにも」
「そんな……嘘……ッ?!」
足に力が入らないい
たまらず、その場にへたり込んでしまう
「広尾?!どうした、大丈夫か?」
「体が…熱い……なに、これ?」
頭がボーッとして視界が揺らぎ、呼吸が荒くなる
「まさか、別の痣の雄しべ影響も受けるのか?
広尾、しっかりしろ!!」
「八、ノ瀬…?」
肩を強く揺すっても、呆けた声で弱々しく返事をするだけ
更に、首筋や手の甲に突然イヌサフランの花が咲き始める
「なんなんだ、これ?」
「説明は後だ!
今は彼を何とかする、それまで少し待っていてくれ」
再び、変異した中松と対峙する
しかし、中松の様子がおかしい
虚ろだった目には、明らかに悲しみの色が浮かんでいた
「あぁ……そんな嘘だ、広尾さん
どうして?どうして僕と同じ花じゃないんですか?
なんで………?」
『残念だったな
お前の想う奴は既に別の痣の持ち主だ
もう、お前と番うことはない』
「そんな……」
『諦めろ
だが、その姿のままでずっといるのは苦しいだろう?
ちょうど、そこに転がってる奴を相手にすれば楽になれる』
「ヒィッ、な、なんだいこれは?」
突然有村の体に、オレンジ色のユリが咲き始める
「助けて!ちょっとそこの二人、見てないで助けなさいよ!!!
いや!離せ、痛い痛い!!」
有村を引きずって、休憩場の奥に広がるM山の森へ向かう中松
「待って!中、松…!!」
ガクガクと震える足で何とか立ち上がって、追おうとする
しかし、八ノ瀬に止められる
「八ノ瀬、なんで…?」
「ダメだ、彼はもう……ダメなんだ」
その声には、悔しさと悲しみと、有無を言わさない響きがこもっていた
「そん…な」
『そいつの言う通りだ』
垂れ下がった受話器から、
嘲笑うように放たれた言葉が更に広尾を絶望させる
『さて、邪魔者はいなくなった
お前らも一旦帰れ
俺が行ったこと覚えてるよな?』
そう言い残して、受話器がひとりでにもとの位置に戻った
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