襲い来る症状

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館への帰り道、 後部座席の窓を開けて風を受けながら、虚ろな目で煙草を吸っている広尾 時折つく大きな溜め息が、本人はそのつもりはないのだろうが、こちらの罪悪感を煽る 「あぁ……その、広尾」 気まずすぎる沈黙を割いてみる 「なんだよ」 バックミラー越しに強く睨みつけられる その目に萎縮してしまいそうになるが、自分から話しかけた以上、 黙っていても仕方がないので続けた 「さっきは、その…本当にすまなかった 説明を先にするべきだった 俺も少し焦ってたんだ 他の痣からの影響が出るなんて、初めての経験だったからな 言い訳にしか聞こえないだろうが、本当にすまなかった」 「……………………」 返答はない それもそうだろう 緊急事態だとはいえ、誰だっていきなり説明も無しに、 あんな事をされたら怒らないはずがない (しばらくは口を利いてはもらえないだろうな) そう思った矢先、黙っていた広尾が口を開いた 「今度から、何かするときは全部説明しろ お前は、 こういう事に対して何をすればいいかわかっていても、俺は知らないんだ わかったな?」 バックミラー越しに睨んでいた目線を閉じ、静かに言う こちらを避難する言葉の棘もあったが、どちらかというと、懇願するような響きのほうが強いように感じられた 「わかった、今度からそうする 本当にすまなかった」 「わかったなら……いい 何も説明してくれないのは、森宮さんだけで十分だ」 流れる景色を眺めながらポツリと呟いた 問いただすことはしなかった 怒っていた雰囲気が、その一言を呟いた瞬間、どこか悲しげなものに変わったからだ
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