18人が本棚に入れています
本棚に追加
自殺の名所と言われるだけある
ハイキングコースから見える位置にすら、
木に吊るされた枝や、血の跡のようなものまで見える
「このあたりか」
目的の場所には、まるで目印にしてくださいと言わんばかりの、
卒塔婆や供えられた枯れた花の残骸があった
「奥に道が続いているな
おそらく現場はこの奥だろう」
横の草木が茂っているが、整備されていた道らしきものが見えた
ガサガサと藪をかき分けながら、足早に入っていく
「おい、広尾待て
単独行動は危険……広尾?」
後を追おうとすると、すぐ目の前で広尾が立ち止まっていた
「どうしたんだ?」
「今、誰かが俺を呼んだ気がした」
「俺が呼んだ声じゃないのか?」
「違う…お前は俺のことを下の名前で呼ばないだろう?」
振り返った広尾は、青ざめた顔で恐る恐るといった感じで言う
「確かに、呼ばないが……
風の音を聞き間違えたんじゃないのか?」
「聞き間違い………か
そうだな、きっとそうだ
すまない、行こう」
言い聞かせるように早口で呟き、早足で道を進んでいく
「大丈夫か?
館にいるときから、様子がおかしいように見えるが」
「大丈夫だ…大丈夫
早く、こんなクソみたいな病の謎を解き明かせば……何も問題はない」
「さっき、何が聞こえたんだ?」
「は?」
「いや、さっきのは聞き間違いだって……」
「違うんだろ?
今のお前は明らかに平静じゃない
さっきは否定して悪かった
もっと詳しく教えてくれないか?」
「……………」
立ち止まり、俯く
コートの裾を握る手は、力の込めすぎなのか、恐怖や不安から来るものなのか、強く震えている
「俺が、そんなに信用ならないか?」
「ちがッ……そう言うわけじゃない
"これ以上関わるな"って、そう聞こえたんだ」
「怪異からの忠告か?
今追っている怪異からのでは無いだろうな
だとすると……」
「多分……元凶となった怪異だろう」
「そうなるだろうな
いや、待てよ
広尾、お前の下の名前を知っているのは俺とリリアと……それから…」
「現役時代の奴らと…あの人くらいだ」
その言葉は全てを物語っていた
同僚だった二人は、広尾のことを名字呼びしていた
残るあの人は下の名前で呼ぶほど親しい、間柄であるとなると…たった一人しかいなかった
「まさか……!!」
今まで追い求めていた怪異の正体
まさか、こんな近くにそれを知る者がいたとは
驚きと、困惑が同時に鎌首をもたげる
最初のコメントを投稿しよう!