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広尾は、こちらが言葉を続ける前に早口に捲し立てる
「隠したかったわけじゃない!
違うんだ……ただ、信じたくなかっただけで
森宮さんが、こんな事するわけ無いって
そう思いたかっただけなんだ……
半年前も…同じ声を聞いた
その時からずっと、疑ってはいた
でも……でも、あの人の復讐は終わったはずだって思って……
でも、今の声も、半年前の声も同じで
どうして…森宮さん、何で、何で?」
堰をきったように聞いてもいないことを口走り、視線を忙しなく動かす
パニック状態に陥っていた
「落ち着け、広尾!
その森宮さんが何を考えてるのか、何が目的かは、この先調査を進めればわかる
復讐だとしても、それ以外だとしても
わかるか?」
「………うん」
まっすぐ目を見据えて言うと、なんとか落ち着きを取り戻したのか、広尾は弱々しく頷いた
「調べるためには、ここでパニックになっても仕方がない
落ち着いて、今できることをするんだ
いいな?」
「………わかった…すまない
俺の悪い癖だな……本当に…すまない」
今にも消え入りそうな声
忙しなかった目線も、落ち着いてはいるがまだ、怯えの色を含んでいる
何か引き金があれば、またさっきの様になりかねない危うさがある
「怖いなら抑えずに、頼ってくれ
パニックになられるよりずっとマシだ」
そのまま先へ行こうとする広尾の手を、無意識のうちに掴んで言った
本当は、車に戻っているか、
元々調査に参加させないほうがいいのはわかる
しかし、離れすぎると花紋病による不安症が出る上に、
広尾自身が調査に参加しないことを拒むだろう
(きっかけさえあれば、広尾の心はいつでも崩れる
それを必死に支えながら生きている
本来一人では支えられない程の、大きなトラウマを
それなのに…それに立ち向かわなければいけない
まるで………)
「俺も、同じだ
大切な人を亡くして辛い時期があった
今でも辛くなる時がある
そんな時、リリアや伊藤のおかげで今こうしていられる
だがな、それでも自分から助けを求めない限り、
どれだけ周りが気遣ってくれても、苦しいままなんだと気づいたんだ
だから、辛いなら言ってくれ
怖かったり、不安だったりしたら存分に頼ってくれ」
夜風が二人の間を吹き抜ける音が聞こえる
そんな一瞬の沈黙が、永遠に感じられる程長かった
「……………ハハッ、同じだな
森宮さんも同じことを言ってくれた
皆…優しいな……ありがとう」
館での反応とは打って変わった、広尾らしくない素直な言葉だ
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