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獣道の終着には、中央に大きな木が生えたかなり広場があった
休憩場のようだが、利用されている形跡はなく、遠目で見ても荒れ果てていた
ここが、梅雨里 聖子の自殺現場となった場所だろう
「広いな、手分けして調べた方がよさそうだ」
「あぁ、そうだな
俺は奥を調べる、手前は任せる
何かあったら、すぐに呼ぶんだぞ?」
「ガキじゃないんだ、それくらいわかってる」
「そうか、なら大丈夫だな」
そう言い残し、奥の方に姿を消す八ノ瀬
『ねぇ』
「ッッッ!!?」
八ノ瀬の姿が見えなくなったと同時に、女が木の前に現れる
もちろん、こんな時間の、こんな場所に突然姿を表した女が、異常じゃないわけがない
僅かに差す月明かりに照らされた女の体は透けていた
『あなたは…誰?
何しにここに来たの?
肝試し?
それとも、また心霊写真だなんだといった感じの、雑誌の記事でも書きに来た記者?』
八ノ瀬を呼ぼうとした瞬間、遮るように冷たく、全てに絶望したような声で問われる
長い前髪の隙間から覗く目は、こちらを試すような眼差しだ
ゾワリと背筋に悪寒が走り、緊張した空気があたりを包む
返答を間違えれば、恐らく……
(落ち着け、間違えなければ大丈夫だ
嘘をつくわけじゃない、簡単だ)
「ち、違う、そんな軽い目的のために来たんじゃない」
喉から絞り出すように言葉を繋げる
『じゃぁ、なんの為に?』
「俺達は、ある怪異となった男の調査をしている
一年前、ここで無理心中を図った男のことを調べていると、お前のことも出てきた
何か、知っていることはないか?」
『あなたは、八ノ瀬家の人?』
唐突に八ノ瀬の名が上がり、困惑する
「な、なぜその名を…」
『違うの?
違うのに、調べに来たの?
じゃぁ、やっぱりあなたも一緒なのね』
女の声が怒りに揺れる
強い憎悪と殺意が向けられ、徐々に女が近づいてくる
「ま、待ってくれ!!
俺は八ノ瀬家の人間ではないが、今この広場の奥に行った奴はそうだ
そいつの調査を今手伝うためにここに来たんだ
断じて、記事や肝試しのために来たんじゃない!!」
『本当に?』
「ヒッッッ?!」
一瞬にして、顔にかかる吐息が感じられる程に近づかれる
逃げ出そうにも、金縛りにあったように体の自由が効かない
暗い湖の底のような生気のない瞳で、こちらを凝視し女はもう一度問いかける
『本当に、八ノ瀬家の人が今ここにいるの?』
「そ……の、あ……」
ガチガチと歯の根が噛み合わず、うまく喋れない
『やっぱり、嘘なの?』
ブンブンと首を振って精一杯否定の意思を伝える
『じゃぁ、呼んできて
嘘だったら殺す』
地獄の底の亡者よりも暗い憎悪に染まった声で告げ、姿を消した
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