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廊下に出て直ぐある倉庫の扉を無言で開くと紫滝さんは立ち止まった。
「何を探しているの?」
「母から貰った栞を、本に挟んだままにしちゃったみたいで」
理由を話さずに本を読んでいても怪しまれない。反射的についたウソにしてはよく出来ていて、頭で反復して感心した。ここにいる間に言葉が達者になったのかもしれない。皮肉な答えがふと思い浮かんだ。
「へぇ、お母さんから。それは見つけ出さないとね」
言うなり手身近な本棚から一冊取り出してぱらぱらとめくる。
私も時間を惜しむように紫滝さんの視線を気にして端から見てるように振る舞いながら、そして背表紙でそれらしき物を探す。
料理本、菜園…植物図鑑。図鑑の目次で人参を調べてページを開く。何か…何か。品種や育ちやすい気候何か引っかかりを見つけようと一語一句目を通してある一文で止まった。
それはあの人が残していったメモに書かれていた言葉で、意味を理解していなかった。
「だとしたら他のも…」
目次に戻って別の植物を探していると急に本に陰が落ちた。目の前が暗くなったのに左右はまだ明るく照らされている。私の前だけが暗がりになった、つまり。
「植物に興味があるの?」
勢いよく本を閉じてばっと振り返る。
にこやかに佇む紫滝さんが真後ろにいて、力が抜けた私は本を落としてしまった。
「あれ、熱中してたから急に話し掛けて吃驚させちゃった?」
責められている訳じゃないのに狂気じみた笑顔が静かな威圧感を与えて、言葉が出てこなかった。
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