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第2話 新しい家庭教師
聖は今までよりもずっと、家庭教師が来ることを楽しみにしていた。
部屋で勉強していると宮松が入ってきた。ワクワクしながら宮松の方を向く。
「お嬢様。家庭教師のお話ですが、本堂氏が現在ミラノに出張中だそうです。帰国してからになりますが宜しいでしょうか?」
「ええ。分かったわ」
「それと、今夜旦那様と奥様はロシア大使夫妻と食事会なので夕食は一人でと……」
「……ええ」
「失礼致します」
────本当に馬鹿げた世界。大使夫妻でもなんでも勝手にやってくればいい。
聖は執事がいなくなったのをいいことに、ベッドに身を放り出した。
「……帰国っていつなのかな」
ミラノに藤宮グループと取引している大手製薬会社があったから恐らくそこに出張しているのかもしれない。
聖は体を起こし、デスクの引き出しにしまった書類の中から本堂の履歴書を取り出した。
先日は趣味の欄だけ見て満足していたが、もっと本堂のことが知りたいと思った。他に面白いことが書いてあったかもしれない。
だが、聖はその学歴を見て、首を傾げた。
よくよく見れば、本堂は一流大学どころか大学にすら行っていない。高卒で入社した男だった。
よくそんなもので藤宮グループに受かったものだと思った。もしかしたら高校で猛勉強したのかもしれない。
高校は名前を聞いたこともないような公立学校だ。偏差値が高い高校は大体把握しているが、あのエリート志向の正義がこの男を採用したことに驚いた。
────お父様もよく許可したわね。学歴第一とか言っていた癖に。
次に履歴書の裏についているA4用紙いっぱいに書かれた概要欄を見た。
本堂一(ほんどう はじめ)28歳。
藤宮コーポレーション 海外事業部所属 営業担当。
その下には入社時からの経歴がずらりと書かれている。オモテ面に収まらなかったため、こちらに書いたのだろう。
海外事業部では大変に優秀な成績を収めているようだ。大きな利益を出した取引きをいくつも成功させている。
本堂は履歴書の写真で見る限り真面目そうな人物だった。紺のスーツとグリーンのネクタイは爽やかな印象で、柔らかい顔立ちをしている。穏やかで落ち着きのありそうな男だ。
聖は上から下に視線を下ろしていった。そしてそこに書いてあった入社試験筆記テストの結果に目が留まり、目を剥いた。
────っ満点合格!? なんなのこの人……。
藤宮コーポレーションの入社試験はそこらの大学の入試テストよりも難しいと聞く。偏差値は最低でも65はないと難しいと新卒に言われたほどの難易度だ。
あんな訳の分からない趣味を書いておきながら、満点を取れるなんて信じられなかった。
天才と馬鹿は紙一重というが、本堂はどうやら馬鹿ではないらしい。それだけはわかった。
能ある鷹は爪を隠すという。それともトンビのフリをした鷹なのか。
「とんだトンビね……」
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