1 逃亡劇の幕開け

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触れたら切れそうな鋭い岩壁と、古く頼りないガードレールの向こうに抜け落ちる絶壁の間を、時速300キロで走り抜ける。 今日、俺が操るのは、ヤマハのVーMAXだ。 エンジンは水冷V型4気筒、馬力は151。311㎏の巨体だが、圧倒的なパワーで、信じられない加速をする。 左右交互に現れるタイトなカーブを抜けると、約2キロメートルに渡る直線コースに入る。 一気に加速したことで、フロントがわずかに浮き上がる。 全体重を前方にかけ、なんとか路面に着地するが、その隙に追尾していたバイクが、すぐ後ろまで迫ってきてしまった。 「させるかよ!」 グリップを握り直し、迫り来るヘアピンカーブに備える。 スピードは100キロを保ったまま、車体を横に倒しバンクさせ、一気に曲線に入る。 肘が路面に触れるすれすれの角度で、自分の体重をタイヤと路面の僅かな設置面に乗せる。 慎重にバランスを取りながらカーブを曲がる。 と、てっきり突き放したと思っていたバイクが、自分を透き通って前に出た。 「あ、くそ!」 しまったと思ったときには遅かった。一瞬バランスがくずれ、思わずアクセルを開いてしまった。たちまち後輪のグリップが戻り、車体を内側に吹っ飛ばしながら、転倒した。 岩壁に身体を強く打ち付けられ、路上に転がる。 目の前には真っ赤な文字で“再起不能”と表示される。
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