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「また負けた!あのくそ兄貴!!」
言いながらプレイキューブを投げ捨てるように外すと、辺りは山間のレースコースから、古びた小屋に戻った。
「……意外と元気そうだな」
小屋の片隅に膝を抱いてしゃがんでいる男に、悲鳴を上げる。
「アホ!脅かすな!」
卓巳はにやにや笑いながら立ち上がった。
「なんだよー。学校サボって、プレイキューブでエッチなゲームでもやってたのかあ?」
アルミボトルのジュースを投げて寄越す。
「ちげーよっ!わかってんだろ。公的機関に入場禁止期間なんだよ。学校も然り!」
「冗談だって。怒るなよ。んで、何のゲームしてたの?」
「……バイクレース」
「よくやるねー。俺、ゲームでも絶対無理だわ」卓巳が目の前で手を振る。
「手動で運転して、安全機能もついてないなんて、想像するだけで、ふくらはぎがそわそわしてくるわ」
「これだから素人は」
「へえ?じゃあ、今日こそ勝てたんだろうな?お兄さんには」
「うるせー」
母親が元気だった幼少の時分に買ってもらったプレイキューブゲームで、よく兄と競争をして遊んだ。
今も、肩を並べてやることこそないが、それぞれが自分がやりたいときにレースをして、互いに速さを競っている。
兄の記録を少し上回れば、すぐ越され、やっと追いつけば、二日と開けずに記録が更新される。
いたちごっこと言うよりは、俺のレベルに合わせて、その上すれすれを提示してくる兄に、うまく踊らされている気分だ。
「それはそうと」
居心地悪そうに座り直しながら卓巳が目をそらして言う。
「大変だったな。お袋さん」
不器用な奴だが、ここにきた理由は、俺のことを気遣ってのことなのだろう。
その気持ちがくすぐったくも嬉しい。
「まあ、な。でもまあ、ずっと具合悪かったし」
お袋が死んだのはつい昨日のことだった。正確に言えば、気がついたのが昨日だった。朝、いつもより遅めに起きた俺が、寝室を覗くとすでに冷たくなっていた。
「近いうちにこうなるとわかってたから覚悟はできてた。ほんと、寝てるみたいでさ。最後に痛がったり、苦んだりしなかっただけで、よしとしてる」
「そうか。そうだよな」
目を伏せたまま卓巳が言う。
「それで?お前の方は大丈夫なのかよ」
「何が?
「体調。なんか最近、具合悪かっただろ?遅刻してきたり、保健室で寝てたりさ」
「あー。なんか、だるかったり眠かったりな。季節の変わり目だからじゃね?」
「年寄かよ!お兄さんは?どうしてる?」
「あー。たぶん知ってるだろうけど、まだ会ってない。もともと家にそんなに寄り付かないし」
「ふーん?でもこんなときくらい……」
「兄貴のことはよくわかんねー」
受け取ったジュースの蓋を開くと、フワッとピンク色の蒸気がハートの形になり弾けた。
「……おい。これ、あげる相手間違ってないか?」
「何を言う!俺の純粋なる気持ちだよ!」
嬉しそうにケラケラ笑いながら自分のも開けている。そっちは花火が飛び出していた。
「全く」
言いながら乾杯よろしく二人でボトルを合わせると、透明の液体がたちまち黄緑色になる。
「何味?これ」
「えーとね、キウイとメロンのミックス」
口に入れて噛み締めるように咀嚼する。
「あー!するするキウイなー!メロンなー!」
大袈裟に言うと卓巳も乗ってくる。
「気持ち、メロン強めでもいいのになー!」
「言えてる!」
拳を合わせる。
3秒後、
「ばからし」いいながら俺は脱力した。
「メロンもキウイも、夢でさえ食ったことねーわ」
「右に同じく」
「……ひたすら甘いな。本当に果物ってこんなくそ甘いわけ?」
「なー」
2人で蓋を閉めてため息をつき、窓の外を見た。
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