靄を払う

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その不安は喫煙室に突如放り込まれてしまったみたいに、僕の目の前を灰色の靄で埋め尽くす。 ――どうにか必死に払いのけようとする。 その靄がかった不安を取り除く為には、僕も少し苦い思いをして、バランスを取らなきゃいけない気がしてくる。 それから僕は 『自分が得るはずだった小さな幸せを誰かにそっと譲る=お裾分け的な行為』 をすれば不幸を回避できるのでは?という見解に至る。 例えば学年1位をテストで取り続ける事なんて造作もないのに、敢えて少しだけ間違えて解答を記入する。 1、2問だけ間違えるような。 万年、2位の子にも1位になるチャンスをあげるんだ。 すると「章君も間違ったりするんだね」と、 僕が皆にとって完全無欠の人間ではなくなり、親近感が少し湧いたりもするだろう。 この時、間違っても空欄なんかには、しちゃいけない。 即座に担任の先生が異変に気づいてしまうから…… 僕がそんな単純なミスを犯すことなんて、先生の中ではあり得ないことなんだ。 ほんの少しの嘘なら、特に疑うこともなく、自然に受け入れてしまうのが世の常だろう。 人間関係を円滑にするうえでも、自分ばかり注目を浴びぬよう、そっと一歩下がって周囲の人達に場の主役を譲る…… 人に妬まれない丁度良い塩梅でバランスを取ることが重要だ。 そんな細部まで抜かりのない心配りが、子供の頃から今日まで、僕が周囲の人間に愛され、妬まれず、仕事までもが順調な要因だろう。
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