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「……でも、私は覚えてるよ」
振り返ると、まだ立ったままの彼女が俺の目を見つめる。
「それが、いくら少しの間でも一緒に過ごした幸せな時間は忘れない。ここにいつもあるから」
と、心臓の位置に手を当てながら彼女はそっと微笑む。
「だから生きていける。そういうこともあるよ。おじさんとの思い出も私は忘れない」
今この瞬間に、俺という存在が消えても世界は何一つ変わらないけれど。
誰かの中に残って誰かの支えにると思えば、これまでの全てに意味を見出だせる。
それは、音楽に対しても同じことなのかもしれない。
例え鳴かず飛ばずでも、俺達の音楽を聴いてくれた人達の中に何かしら残ればそれでいいのかもしれない。
「……そうだな」
後ろ向きに生きることはやめたはずなのに、やっぱり生き方の癖というものはなかなか抜けないものだと痛感する。
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