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邪竜の根城の巻
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一筋の閃光とともに、多くの魔物が吹き飛んでいった。跡形もなく。
突き抜ける風が、大地の砂を払いのけた。
砂が舞ったのち、姿を表す人物。
手には剣をもち、その構えから、先ほどの魔物を葬った人物だとわかる。
その名も、勇者ヨネゾウ。
突然爆炎をあげながら、ヨネゾウの背後の大地が割れる。
溶岩の魔神が、その身を現す。口から漏れる熱という毒、すべてを溶かしつくす障気。大地が悲鳴をあげ、地響きを起こす。
ヨネゾウの近くにいた軽装の女性と、聖魔法術士は、それぞれ身構える。
ヨネゾウは、振り向き様に、剣を凪ぎ払う。
爆炎が、真っ二つに裂けながら、溶岩の魔神へとぶつかる。
激しい明滅の後、溶岩の魔神は、巨大な光と共に、砕け散った。
ヨネゾウは、ふん、と息で鼻を鳴らし、大したこと無さそうに剣をしまう。
左右にいる女性二人は、そのヨネゾウを支えるように、凛々しく立つ。逆光になり、影が三人を包み込む。
なんと、雄々しく力強いものなのだろうか。
その小さな背中に背負うものの重さなど、微塵も感じさせず、ヨネゾウはまた歩きだす。その体が動く限り、世界に平和が訪れぬ限り。
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「な、なんなんでしょう、このおじいさんの強さって。だ、だって、あれ国滅ぼすレベルの魔物よね!魔物の域越えて伝説級なんじゃなかったかしら!」
そうユミルは、セシルに震え声で語りかける。
「これは、、、神様の使いなのです」
そういうとセシルは、乾いた微笑みを浮かべると、神に祈った。
「だー!鬱陶しいのう。さっきっから、ぽこぽこ現れよって!!まとめて凪ぎ払いたくても、もぐらのようにでてきよるわい」
伝説級のモンスターをもぐら扱い、と項垂れるユミルは、一つの目線に気づく。
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ヨネゾウは、スタスタと禍々しい外観をした城へと歩みを進める。聖魔法術士もついていく。その姿まさしく悪魔さえ怯えて逃げ去るほど。
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「あれ?軽装の女性は?」
全く気がつかないうちに、見失ったようだった。
と辺りを見渡すと、軽装の女性は音もたてずに、私の後ろに現れた。
その美しく輝く短刀を私の首筋に突きつけて。
「あんた何者?」
セシルは口を開く。
目の前には、尻尾と耳の生えた竜の少女。少女はひゃあと短く叫ぶと、頭をたれる。
「命までは勘弁を!」
「要件は?」
声を聞いたヨネゾウがなんじゃなんじゃと近寄ってくる。
「実は私、ここの聖竜の一人娘でございまして」
「はあ?!」
ヨネゾウが近寄ってくる。
少女は、恐れをなして矢継ぎ早に言葉を綴る。
「実は、かくかく然々で」
話をまとめるとこういうことだった。
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かつてここに住む竜の王は、愛と平和に満ち、人間とも折り合いよく、生きていた。
しかしある日、魔王と名乗る悪魔が、竜の王に呪いをかけた。その日から、狂ったかのように、虐殺を始めたのだという。悪しきものが多く集まりだし、少女は逃げ出した。少女、ストリテラは、父を止めてくれるものを探し求めたのだと。
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「で、あんたはここでなにを?」
「ヨネゾウ様の勇姿に深く感銘を受けまして、追っていたのです」
ヨネゾウは、まんざらでもなさそうな笑みを浮かべる。
ユミルは信用ならない表情を浮かべ、憎しみのこもった顔をする。
「父を殺さないようお願いする機会を伺っていたのです」
「あんたね。私の家族だって、あんたの父に奪われてるのよ」
と激昂するユミル。
しかし、ヨネゾウは、大きく頷く。
「うむ。話はわかったぞい。ならば悪いのは、その魔王とかいう悪魔。ユミルや。気持ちはわからんでもない。ワシも戦に出兵した息子を失って深く傷ついたこともある。じゃがのう。ユミル、それではなにも解決できん。その根源を絶たねばのう」
そういい、少女の手を握る。
「ストリテラと言ったのう。主の父、その呪いを解いて、罪滅ぼしをさせてやろう」
そういって、スタスタ歩いていってしまった。
「先に聞いておいてよかったわい、危うく美少女を泣かせるところじゃった」
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ヨネゾウは、行く。
階段を踏みしめ、竜の王のもとへ。
幾千もの争いを押し退けて。
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「で、あんたはさっきっから難しい言葉をぼそぼそ呟いているけど、なんなのそれ」
「あ、漏れていましたか!これは、癖というか、つい話したくなるのです、勇者ヨネゾウの勇姿を!」
ストリテラの目は、憧れに満ちたものであった。
ついに、目の前に相対するは、竜の王。
ヨネゾウが邪竜と化したストリテラの父と、なんども剣撃をかわす。
なかなかやるのうと呟き、どこか気持ち良さそうに微笑む。生きている実感、それを感じさせてくれるのだった。
ヨネゾウに、大きく吸い込んだ炎を浴びせる瞬間、ストリテラが飛び出る。
「父さん!」
邪竜が一瞬の動きが止まる。
~~
ヨネゾウは、躍り出る。
漏れでた炎を、剣のひと振りで消し去り、ええい!の掛け声で、竜へ切りかかった。
竜の全身を包み込む邪気が真っ二つに裂け、中から、聖なる光が迸った。
ありがとう
そう城中から聞こえるようだった。
その中には、ユミルの家族もいた。
ユミルは、家族に触れあうと、憑き物がとれたように柔らかい表情を浮かべた。
今まで邪気が溜め込んでいた、人間たちの精神が解放される。
その中には、竜の一族とおぼしき影もあった。
ストリテラも母と出会う。
そして正気を取り戻した父とも。
ヨネゾウは、どこか懐かしいものを見るような顔で微笑む。
そして、全く様変わりした白く美しい城を、あとにする。
「待ってくれ、ご老人!せめて感謝を!」
聖竜がそういうと、ヨネゾウは立ち止まる。
「なんじゃ?感謝などと。これから復興せねばならぬのじゃろ?」
「せめて、何かお礼でも。ああ、そうか。我が娘をストリテラを連れていってはくれぬだろうか。こう見えて、役立つはずだ」
「ふん。ワシは魔王とやらを滅ぼす必要が出てきよった。それでもか」
「なれば必ず役に立つ。我が娘は魔王の呪いが効かなかったのだからな」
そう答えると、ヨネゾウは笑った。
「うむ。それならばそれで一件落着じゃわい」
ヨネゾウは歩いていく。
その後ろを、心配そうなセシルと覚悟を決めたユミル、そして父と亡き母に見守られたストリテラ、三人の美しい女性がついていく。
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城を出る直前セシルは、ヨネゾウを止める。
「あのう。王女様はどこでしょう」
「あ、忘れとった。王女を助けねば」
王女は、魔王につれていかれたようだった。
国に戻り報告すると、またごちゃごちゃ言い出したので、ワシがひと暴れすると、ここの国の復興を手助けすることを決めたようじゃった。
はじめからそういえばよいものを。
また、王女を救うため、魔王討伐軍が編成された。
しかし、結果は惨敗。たった一人生き残ったものが、洗脳されたように口を開き、爆発四散した。
「我は、魔王。貴様らの娘を預かった。生かしてほしくば、そこの勇者とやらを向かわせろ。もちろん兵をつけずにな。軍が動けば娘は殺す」
とだけ残して。
この話は、王の耳に届いた。
王は、これからヨネゾウにどう伝えたものか考えるだけで、胃が痛くなった。
勇者ヨネゾウの旅はまだまだ続く。
~魔世界突入編へ続く~
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