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月日は流れ、厚手の冬物コートを脱ぎ薄手のトレンチコートを羽織る季節となってきたこの頃。
年明けから次々と届く同級生からのおめでたい話題に、いい加減俺も一歩を踏み出さなければならない。この三カ月、何度もそんなことを自身に言い聞かせていた。
だが、いざ行動に移そうとすると、俺の最奥があの日受け止めた風雅の熱雄をはっきりと記憶しており寂しく疼くのだ。
欲しいのは、風雅。
募る想いに、まだ俺は少しも先へ進めないままでいる。
仕事帰り、家の前でスマートフォンに届いた仲間からのおめでたい話題に返信しながら、そんな自分自身に、軽く溜息をついていた。幸い、まだ具体的な風雅の結婚式の話等はまだ耳には入って来ない。
デキ婚だと言っていたから、式は挙げないのだろうか。色々、勝手に想像してしまう。
「何、溜息ついてるんだ?」
唐突に背後から声を掛けられる。耳に心地好い低い声。よく知ったアイツの声に似ていた。
まさか……?
一瞬、手許のスマートフォンから視線を上げた俺は、頭にその声の持ち主の顔が浮かぶ。だが、多忙過ぎるアイツが今現在、ここにいるとは思えない。
聞き間違えだろうか。
そう思った俺は、引き続きスマートフォンへと視線を落とす。
「おい、俺のこと無視かよ。こっち向けよ」
再度掛けられた聞き覚えのある声は、俺の背後から前へと移動し俺のスマートフォンを持つ手首を掴んだ。
「……え、あ?」
ゆっくりと視線を上げると、そこには甘いマスクを持った今一番俺が欲しいと想っていた男、見城風雅がそこに立っていたのだった。
「どうして?は、何で?」
突然の事態に、俺は酷く動揺してしまう。
「ずっと椿冴と一緒にいたいから、仕事……辞めてきた」
「えっ?!」
「椿冴は俺の幼馴染みで、椿冴を幸せにするのは男の俺じゃないんだって……何度も何度もずっと自分に言い聞かせたてきたけど、ダメだったんだ。あの日、とうとう椿冴のリアルな熱を知ってしまったから――」
そう言うと、風雅はギュッと愛おしそうに俺を抱き締める。
「椿冴を幸せにしたい。“愛してる”」
切なそうな表情を浮かべようやく想いを告げた風雅は、俺の許可無く獰猛に唇を奪った。
上がる吐息。
淫猥に響く蜜が絡み合う音。
そして布越しに押し充てられた、熱い昂り。
全てが嘘では無いことくらい、今の風雅の様子を見れば一目瞭然であった。
だが仲間が言っていた「風雅、デキ婚するらしいよ」その一言が頭を過ぎる。
いつの間にか、不安な表情を浮かべていた俺の顔を、風雅は優しく自身の胸へと引き寄せた。
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