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灰ネズミとサヌストリート教育理論
がさりがさりーない。
ガサリガサリー見つからない。
我差離画佐理ーどこいった?
「あぁー?シーリアなにやってんの?」
「ん?」
振り返るとそこには呆れた表情をしたウィリアムが立っていた。あぁ、今日もアホ毛が可愛い。
「ちょ、汚ねぇ。近づくなァ!!」
そう言うとウィリアムはためらいのない強烈な蹴りを放つ。が、そう何度も喰らうはずもなく間一髪でそれを避けると首をかしげる。
「え、どうして…?」
「ジャアっかしい!てめぇさぁ!なんで朝っぱらから埃まみれなの!??昨日は泥尿まみれ、今日は埃まみれ。なに!?それが都会の風習だとかほざきやがるわけじゃねぇよナ!?」
言われてみると確かに埃まみれだ。近くの鏡で見てみると本当にとんでもなかった。
美しく伸びた銀の髪(埃にまみれた)
白狼を連想させる凛々しい眉毛に何にも屈することはない強く光る青い瞳がついた顔(埃で薄汚れた顔面)
清廉で見る者の穢れを払うような純白色の聖堂服(埃と汚れで彩った灰色の装飾)
真っ白な肌にすらりと伸びた指(2年放置した家を大掃除した後のような手)
え、誰だこの灰ネズミは。新しく保護した差別虐待ネグレクトマルトリートメント少女かな。
なんてことない私だ。あれ、デジャブ感じる…まあいいか。
「で、何やってんの?というか何探してんの?」
そうだ、ウィリアムなら知ってるかも。長い事家を空けてた私と違ってウィリアムはずっとここにいたわけだし。
「サヌストリートの教育理論」
「は?なんだって?」
「サヌストリート教育理論って分厚い本。ほら、赤色の表紙の」
「あー見たことあるようなないようなだな。知らね。ちょっとおチビ連合君達に聞いてくるよ。たぶんヘアヌカートなら知ってるっしょ」
そう言うと部屋を出ること数分。茶髪の少女が現れた。否。連行、というより捕獲。首根っこを掴まれたその子は死人のようにうなだれており瞳に生命を感じさせない。おそらく委任連行を拒否したことにより絞殺されたのだろう。ばれたら一大事だがそこは聖職者としての特権権力が全てを沈黙させる。
「埋めるならどこに…?」
「おい、なに恐ろしい事言ってんだ。おいこら死んだふりしてんじゃねぇ。とっとと起きやがれサボり」
「うっ…」
ウィリアムはヘアヌなんとかを鮮やかな動作で床に投げると顔を踏みつける。秘密警察からスカウトが来そうな鮮やかな手口だ。
ヘアヌなんとかはくぐもった声を上げると降参と言わんばかりに両手を上げる。それを確認したウィリアムは注意深く足を退けるとソレは起きた。
「風よ。私の命に従って―――」
魔力が風のエネルギーに変換され小さな風が発生する。
風魔法だ。見た目4歳くらいのチビだが初級とはいえ魔法が使えるとは驚きだ。
風はかまいたちのような鋭い風速を持って刃のようにウィリアムを切りつけようとした。しかしー
「うっ!げぇぇえ!」
「お見通しだバカヤロウ」
ウィリアムは特に慌てた様子もなく冷静に術者のミゾを蹴り落とす。それだけで魔力の変換を失った風はいとも簡単に消滅した。
「あのさぁ、攻撃するならもっと賢くやりなよ。こんな超至近距離でわざわざ詠唱魔法使うって王都教会の目の前で異端者だって叫ぶようなものだよ。ばーか」
しまいに唾を吐き捨てるウィリアム。恐ろしい子だ。相手の子は見るからに4、5歳のガキ。それなのにそんなことをするなんて。しかし考えてみたら道理にかなっている。先に攻撃を仕掛けてしたのはこのなんとかってガキだ。女神アデスをおっしゃってたじゃないか。喧嘩をしたくなければそもそも喧嘩を売るなとね。つまり合法だ。
私は無詠唱で水球を構築すると床で悶えているガキの顔面に「えい」ぶつける。衝突した水球は弾けることなくそのなんとかってガキを覆う。そして彼女から酸素を奪う。
「うっうっうっうっ!」
もがき苦しむなんとかは錯乱して自身の首を抑え始める。その姿を見た天使ウィリアムは慌てた様子で私に言う「やりすぎだ」と。しかし彼女は知らない。人という者は存外なかなか死なないと。私は彼女に大丈夫だと教えるとなんとかを観察した。
ふむ、茶髪は肩まで伸びてる。顔はまぁまぁ整っている。動物で言うならアナグマかな。瞳を見るとどうやら完全に錯乱している様子ではなく、どうにかこの状況を打開するだけのアイディアを考えているようすだ。だがしかしそのアイディアが首を擦るだけのところを見ると危機的状況に対する打開力はそれほどないらしい。まぁ考えてもみればまだ5歳前後程度。そんな思考能力を持っていれば化け物か。お、意識を失ったか。ここまでだな。
水球を弾くと床に水が侵食する。私は教育的指導のツケを支払うべくして救済行動を行った。
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ぺらっぺら
なんだか昨日から騒がしいなぁ。そういえば誰か帰って来たんだっけ。子供隊長がなんか言ってたな。まぁ私には関係ないな。
ぺらっ
「おい、ヘアヌカートお前またサボってるのか?」
「サボってない。私には私の仕事があるだけよ」
「野良仕事をせずに本だけをずっと読みふけることがか?」
ぺらっ
「適所適材。私は知能が高い。だからその分野を伸ばす。あなたたちは知能が極めて低い。だから農作業をする。単純な話しでしょ?」
「おまえさぁ、そういう考え方止めた方がいいよ。だから仲間が出来ないんだよ」
ぺらっ
「低能とつるむくらいなら本と仲良しこよししてるわ。てか私の行動に関しては神父ノドアメから保証を得ているはずだけど?」
「チッ勝手にしやがれ。お前さあんま舐めた態度取ってると後悔するよ?」
ぺらっ
「ご生憎様。私の辞書に後悔なんて単語ないの。帰って野良仕事でもしたきたら?ワンセット。」
ぺらっ……
ぺらっ……
ぺらっ……
「おーい、ヘアヌ。用事、ちょっと来てくんない?」
ぺらっ
「おーい、ヘアヌカ用事」
ぺらっ
「はぁもういいや。」
「ぐおっ!は、離せ!」
「はいはーい暴れなーい。お前に聞きたいことある人いるからさぁ。とりま来てな」
子供隊長はそう言うと私の首ねっこを掴んで歩き出した。
ばか!ばか!首が締まってるだろ!おいばか離せ。あ、やばい酸素が切れる。え、ちょ。待った。へ?こんなところで死ぬの?この私が?天才的頭脳を持ったこの私が?う、嘘だろ。あ、やばい。頭クラクラしてきた。ま、マジでゆ、許さ、な、い。ぐえ
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