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その3
その3
それは、あまりにあっけない目的達成だった。
そしてその場所は、伊豆の某ペンション…。
”今日悟ったわ。今までのオレのデジャブモード、ああカン違いだってな(自嘲笑)”
大打ノボルは伊豆入り初日の夜、焦がれた大男を面前にして、自分にそう呟くのだった。
...
”通称バグジー…、本名は柴崎典男、年齢20ん歳…。ブタ箱経験2度。殺人歴なし。趣味は最先端のファッションを身につけることとな…。こりゃ参った…”
「…疑う訳じゃあないが、アンタ、本当に握力100キロ超なのか?キレたら若い女も血だるまの半殺し平気って、そのバグジーさんで間違いないんだな?」
「ああ、正真正銘だ。そこの冷蔵庫にリンゴ入ってるから証拠見せよう」
それもあまりにあっけなかった。
瞬時のリンゴジュース完成…。
”これが人間ミキサーってか…。はっきり言って、なんだかなあ…”
「ああ、疑って悪かった。アンタのガタイ見て納得ではあったが、何分、ビジュアルが全く外れてたんで」
「よく言われるわ、それ。気にしなくていいぜ。そう言うことなら」
”何とも面白いガイだな、コイツ…。外見は意外だったが、そこも含めてめちゃくちゃ気にいったぜ。早速交渉と行くか”
...
「…話は分かった。こっちは文字通りフリーでな。基本、雇い主に嫌悪感なしなら、仕事内容は選ばない」
「念のために聞くが、オレに嫌悪感とやらは大丈夫なのか?」
「自信ないのか、アンタ?」
「何分、自分でも変人だと思ってるからな。眩しい陽の光が死の闇に見えるってレべルを自認してる。だから、”その辺”も織り込んで返事してくれ」
「オレもかなりの変人…、いや奇人かな。まあ、”そいつ”をガキの時分から自覚してる人間なんでな。そこんとこは気にならんさ。オレの催す嫌悪感は”その角度”じゃあない。とりあえず、そこはスルーしてくれていい」
「ああ…。だが、この先おいおい、”それ”を感じたら遠慮なく言ってくれ」
「わかった。覚えておく」
”いいな、この感覚…。惚れそうだ”
ノボルは外見イメージで意表を突かれた、そのアイドル顔負けのルックスとファッションにもノックアウトされたようだった。
...
「…ああ、ヤクザと接点ってのは別にとやかく言わねえよ。そのスジ直となれば、いろいろ確認事項はあるが、雇い主がそっちならワンクッション噛む訳だし。ノープロブレムだ」
「やけにさっぱりしてるな。請負いにNGはなしってことかな?」
ノボルは暗にカマをかけていた。
「AV女優の面接じゃあねえんだから、そのフレーズは抵抗あるが、要は納得するか否かだ。気の乗らねえオーダーはいくら”積まれても”そっちの言うNGってことさ。まあ、オレに興味を持って追っかけてくれてたアンタなんだから、極力ご希望に沿うつもりではいる」
「そうか…」
「…まだ、何かあるのか?」
ノボルは一瞬、とまどった…。
...
「いや、今日はここまででいい。おそらく近々オーダーってことになると思うんで、まあ、ひとつよろしく頼むぜ。バグジーさんよう」
「ふふ…。お互い変人同士、その辺も含め、こっちこそよろしくだ」
”迷ったが、殺しがNGかのクエスチョンはやめた。好漢だし、まずは、それ以外の仕事で実績を重ねていこう。そのあと、時期を見て秒殺オオカミと同ラインまで請負い可能かどうかを確認すればいい”
この時のノボルは、何故かバグジーの今得たイメージ感を崩したくなかったのだ。
その一方で、この男に初っ端で嫌悪の感を抱かれるリスクは避けたかったという気持ちも働いたのであろう。
何しろ今日のところは、予想を大きく裏切ったそのビジュアルで伝わてくる自分の感触を、むしろそのままにしておきたかったのだ。
”これじゃあ、武次郎や御手洗と並べて兄弟ってのは完全ないわ。はは…”
...
秒殺オオカミに次いで、ここでまたバグジーという強烈な個性を持つ仕事人を確保したノボルの胸中…。
それは明らかだった。
とにかく二人の実際の仕事ぶりを見たい、確かめたい…。
今の彼はそれに尽きていた。
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