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恋々と花綻ぶ
——あれは、雨粒が飽きることなく降り注ぐ、寒い寒い夜のことだった。
美しい花を見つけたんだ。ちっぽけな道端でね。先生はそう言うと、酷く満足げに微笑み、僕の肩をぽんとひとつ弾いた。
先生は、おおよそ感情を表に出すような人ではない。あんなにも嬉しそうに口元を緩めている彼を見るのは久方振りだった。僕は、酷く狼狽え、また、酷く不可思議な感情に取り憑かれた。先生があの娘に触れたその瞬間から……。
透き通るほど真白な肌をした、僕と変わらぬ齢の娘だった。濡れそぼった衣服を纏い、足元は裸足だった。玄関にうずくまるように座っている様は、濡れ鼠。その言葉が実に似合っていた。
先生は娘の赤く染まった爪先を愛撫するかのように撫でていた。泥で汚れた先生の白い手が、酷く痛ましいものに見え、僕の心がキシキシと嫌な音を立てた。穢れてしまった。先生の美しい手が……。
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