第1話 人気女優は殺人犯

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第1話 人気女優は殺人犯

 人の命は最も大切なものである……そんなことは周知の事実だ。  では、なぜ人は人を殺してしまうのか?  なぜ、自ら命を絶ってしまうのか?  千歳緑(ちとせみどり)は人の命が失われる事件が起こるたびにその疑問を抱く。  十二月二十五日。クリスマスということもあって、世間はどこか浮き足立っていたが、生憎朝からその日は冷たい雨が降り続いていた。  時刻は午後五時。日没を過ぎて辺りがすっかり暗くなった頃、非番だった緑は連絡を受け、文京区春日二丁目で発生した殺人事件の現場へ急行した。  現場は統一感のある高級な戸建てが並ぶ閑静な住宅街。パトカーの赤いランプと、玄関先に装飾されたイルミネーションの光が交錯している。  そんな中、キープアウトのテープが張られた家の周囲には、クリスマスに起きた殺人事件に興味津々の人だかりができていた。  スマホのカメラを向けてしきりにシャッターを押している若い女性を横目に、緑は警察手帳を見せてテープをくぐった。  手袋をはめて中へ入った途端、血の匂いが緑の鼻を刺す。大塚警察署刑事課に勤務しており、その匂いは嗅ぎ慣れてはいるものの、やはりいい気分はしない。 「千歳先輩、お疲れ様です」  彼女へ声を掛けてきたのは、もう一人の女性警察官……東雲琥珀(しののめこはく)巡査だ。  身長は緑よりやや高い一六五センチ。健康的な褐色の肌を持つ彼女はまだ二十四歳という若さだが、仕事に対する熱意と優れたコミュニケーション能力で情報収集には抜け目が無い。  緑と琥珀は、女性が被害者もしくは被疑者(容疑者)となる事件を優先して捜査する特殊な“女性強行犯係”に属している。  女性が関わる犯罪件数の増加に伴い、男社会の警察組織にとって、女性捜査員の需要は年々高まっているのだ。  
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