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「他に何か情報は?」
「近隣住民から数日前にマル害がこの家を訪れており、中村早苗と激しい口論をしていたという情報提供がありました。また事件が発生したとされる時刻に、物音が聞こえたとの証言もあがっています」
確かに殺害現場となったリビングは食器の割れた破片が散乱し、ダイニングテーブルの椅子も倒れている。争った形跡があることから見ても、その情報は間違いないだろう。
「なるほどね……。それで、マル被は今どこ?」
「既に大塚警察署の方へ移送されました。黙秘を続けているとのことで、取調べは千歳先輩に頼むと、氷野係長から伝言を預かっています」
「わかった。ありがとう。検視結果と鑑識からの見解はもう少し時間がかかるはずだから、私たちも一度署の方へ戻ろう」
「了解!」
車へ戻る途中、ふと人だかりの方へ視線を送るとマスクをし、眼鏡をかけた三十代後半と思しき茶髪の女性が一番後ろで魂を抜かれたように立ちすくんでいた。
彼女の特徴的な切れ長の目に緑は一瞬立ち止まる。
―――― あの顔……どこかで見たような。
「千歳先輩? どうかされました?」
「いや、何でもない」
緑は日頃の習慣から女性の顔を記憶して、助手席へ乗り込んだ。
次第に雨足が強くなり、フロントガラスには大粒の雨が次々と打ち付けている。
ワイパーが雨水を弾きながら、琥珀の運転する車は大塚警察署へ向かって駆け抜けて行った。
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