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十分後。緑と琥珀が大塚警察署に戻り、二階の角にある取調室の扉を開けると、艶やかな黒のロングヘアーを一つに束ねた中村早苗がイスに腰掛けていた。
ほぼノーメイクに近いのだろう。
テレビで繰り返し見ていた華やかな彼女とはだいぶ雰囲気が異なる。そして、弟殺害の被疑者となった彼女の瞳に美しい輝きはなかった。
女性の刑事二人を見て一瞬早苗は驚いたように目を見開いたが、すぐに視線を外して俯いた。
彼女の背後にある窓には鉄格子がはめられ、四方は灰色の壁に囲まれた狭い空間。その中で、重く張り詰めた空気が漂い始める。
出入口に近い場所に置かれた記録用のデスクに琥珀が腰かけたのを確認すると、緑は被疑者を注意深く観察しながら対面の席に着き、簡単な自己紹介をした。
続いて黙秘権などについて説明すると、早苗は興味のない様子で静かに何度か頷くだけだった。
ところが、緑の声が一度途切れるなり、その瞬間を狙っていたかのように彼女は唐突に口を開いた。
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