65人が本棚に入れています
本棚に追加
「女性の刑事さんって本当にいるんですね」
「ええ。数は少ないですけど」
「あの……刑事さん、ご結婚は?」
「していません」
テレビのスピーカーから度々流れていた透明感のある声。できることなら、こんな場所で聞きたくはなかった。
「恋人は居ますか?」
「まあ……はい。そうですね」
本来なら、被疑者の質問に対して答える必要はない。まして、自分のプライベートに関わる内容なら尚更だ。
しかし、黙秘を続けていた彼女が緑の前では口を開いた。それにはきっと“何か理由”がある。この機を逃す程、緑は甘い刑事ではない。
「刑事さんは殺したいと思うほど、人を憎んだことってありますか?」
「……刑事にそれは、愚問では?」
「ああ。そっか、そうですよね。すみません……」
「まあ、人間ですからね、私も。殺してやりたいと思った経験はありますよ。ですが、たとえ殺したいほど憎い相手がいたとしても、その間違った衝動を理性で抑える。それが本来人間のあるべき姿だと、私は考えます」
まるで死んだ魚のように濁った目をした早苗の問いかけに、緑は閻魔のように目を吊り上げ、威圧的に答えた。
最初のコメントを投稿しよう!