第1話 人気女優は殺人犯

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「正論ですね。でも……でもね、刑事さん。わたしの弟は、生きていてはいけない人間だった……。金に汚く、平気で人を裏切り、わたしの最愛の人まで傷付けた」 「あなたの最愛の人?」 「はい……。彼女(・・)はわたしの気持ちを受け止めて、いつだってそばにいてくれたんです」  その証言を聞いた緑は腑に落ちた様子で静かに瞬きをした。 ―――― 中村早苗はあまり浮いた話を聞かないと思っていたけど、同性愛者だったの……。 「その女性の名前は?」 「名前は……言えません。だって、それを言ったら彼女に迷惑が掛かりますから」 「そうですね。ですが、あなたがこの話をした時点で、名前を教えて貰えなくても私たちが捜査することになります」 「これはわたしが一人で勝手にやったことなんです! 普通の人……いえ、正しい人間は皆、殺人なんて愚かな真似はしないんでしょうね。でも、愛する人の為なら、彼女(・・)を守る為なら、わたしは弟の命を奪うことができてしまった……。気付いた時には、両手が血に染まっていたんです。でもね、刑事さん。わたしは後悔なんてしていません。本気で彼女(・・)を愛していたから!」 「つまり、あなたが弟さんを殺害したのは、究極の愛情表現というわけですか?」 「…………はい」 「そんなものはただのエゴです。自分の罪を正当化するために押し付けられる愛情ほど、迷惑なものはない」  言葉を詰まらせた早苗に対して、緑は低く唸るようにその言葉を吐き出した。 「刑事さんには、自分の全てを捨ててでも守りたいと思う、本当に大切な人がいないんですね……」  早苗が憐むようにそう告げると、対峙する緑の瞳には怒りの火が灯った。  
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