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ところが、何か言葉を返そうと緑が思考を巡らせていると、早苗はうっすらと額に汗を滲ませ、苦悶に満ちた表情をした。
「どうされました!?」
何事かと慌てて席を立ちそばへ駆け寄った琥珀は早苗の背中をそっとさすった。
「すみません、ちょっと気分が悪くて……」
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。少し休めば大丈夫だと思います」
琥珀は心配そうな眼差しを早苗へ向け、彼女の手をそっと握った。
「無理しないで下さい。千歳先輩。取調べの続き……日を改める訳にはいきませんか?」
そう提案して来た琥珀に対して、緑は深いため息をついた。
中村早苗……彼女は女優だ。体調が悪いという訴えも、もしかしたら仮病かもしれない。
だが、捜査を円滑に進めるためにも、ここで無理に問い詰めてまた黙秘を決め込まれることだけは避けたいのも事実。
「わかりました。詳しい話はまた明日、伺います」
緑は取調べを一時中断し、仕方なく早苗を大塚警察署の留置場に入れることにした。
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