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署に入ると、クリスマスの夜とはとても思えないほど怒鳴り声が飛び交い、慌ただしい空気と熱気に包まれていた。
「おお、千歳。戻ったか」
階段を駆け上がった緑に、角刈りの頭を掻きながら氷野警部補が声をかけた。係長の彼はここ数日署内に泊まり込んでおり、無精髭を生やしている。
少し汗臭いが、仕方ない。緑は目を瞑ることにした。
「中村早苗が突然死したってどういうことですか!?」
「今、解剖の方に回っているが、胸部を押さえたまま死亡していたことから、おそらく循環器系の疾患だろうな。まあ、自殺じゃないことだけは確かだ」
「なにか持病でもあったんでしょうか?」
「体調不良を訴えて取調べを中断した後、状態は回復していたようだが……。持病についても併せて調べている。とは言え、留置場で突然死したとなるとマスコミが黙って無いだろう。ったく、面倒なことになりやがった」
ボヤきつつも比較的落ち着いている氷野係長とは対称的に、緑の胸中は穏やかでは無かった。
このままでは真相がわからないまま、被疑者死亡でこの事件の捜査は打ち切られてしまう。
実際、大塚警察署管内で起きている事件はこの案件だけではない。だが、中村早苗が誰のために殺人という罪を犯したのか? その真相を明らかにしなければ刑事としてのけじめがつかないのだ。
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