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「コーヤ聞いて! 小麦粉とオリーブオイルが買えたよ!」
買い物から戻り、今日の収獲を報告しながらリビングに入ると、コーヤが人差し指を唇に当てて振り向いた。その細い指先が示した方向に目をやれば、窓辺でハチドリが羽ばたいている。
「だから静かに」と、再び唇に指を当てた彼を無視したわけじゃない。でも身体の大きい僕が窓に近寄ると、臆病な鳥はサッと飛び去ってしまった。
「ロレンツォ……」
コーヤが上目遣いに僕を睨む。
「ごめん、でもどうせすぐに戻ってくるよ」
中米の小さな国に、二人で移住して2年。
アパートの窓に吊り下げたガラス器には、蜂蜜水を求めてハチドリが寄ってくるようになった。ボトルの下部に象られた赤い花から中身が出る仕組みになっていて、ハチドリはホバリングしながら長いくちばしを差し込んで蜜を吸う。
アメリカ大陸にしか生息しないこの鳥を、コーヤはとても気に入っているようだ。ピチチチという甲高い囀りが聞こえると目を向けて、飽きもせず窓辺を眺めている。
ハチドリはコーヤに似ていると、僕は思う。コーヤはあんなに忙しなくは動かないけれど、小さな身体で意外と逞しい。そして何より、とても美しい。
膝に置いた本から目を上げて窓辺を見つめるコーヤの姿はまるで一枚の絵画のようで、僕はいつもうっとりと眺めてしまう。
そして、それだけでも、この国に来てよかったと思える。
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