2話

1/1
2974人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

2話

大家さんは私達が知り合いだと知ると、2人で話し合ってくれと言わんばかりにそそくさと帰っていった。 明日業者が見に来るからとだけ言って。 「…悪かった。迷惑かけて。」 「い、いえ…課長もお疲れだったんでしょうし…」 相手が上司とか、責めたくても責められるわけないよねぇ… 「さっきも言ったが、この件でかかる費用は俺が全額出す。」 「…ありがとうございます。」 この際有難く受け取っておこう。 引っ越しにお金結構使った後だし。 そもそも課長のせいなんだし。 それよりも、しばらく違う所に行けと言われてもどこに行けば… 「何処か行く宛はあるのか?」 「それが…」 「…そういえば、お前の実家は遠方だったな。」 そんな事よく覚えてるな。 「恋人は?そういう相手なら、喜んで泊めてくれると思うが。」 「…そんな相手がいたら、こんなに悩んでいません。」 内心ムッとしてしまう。 居たらこんなに困ってない! そういえば… この上の階からファミリー向けの部屋だって聞いてたけど、課長って結婚してたっけ? 独身だったと思うんだけど。 「ホテルにでも泊まるか?金は俺が出すから。」 「それは駄目です。どのくらいの期間になるか分かりませんし、ネットカフェで大丈夫です。」 「ネットカフェ…?」 きっと課長は、そんな所行ったことなんて無いんだろうな。 ネットカフェにいる課長…想像出来ないわ。 「俺の部下に、毎日そんな所から出勤させるわけにはいかない。」 「そう言われても…」 そもそもあなたのせいなのにっ。 「それなら家に来い。部屋は余ってる。」 「は…?いえ、そんなわけには…」 「だったらホテルだ。」 「ですから…」 「ホテルが嫌なら家へ来い。ネットカフェは認めない。」 そんなの横暴だ! 「どっちにするんだ?」 ホテルって言ったら、きっと課長の事だから本当に全額出しそうだよね。いくらなんでも、それは… だからと言って、課長の家も… 顔ははっきりとは見えないけれど、譲るつもりはないというのが空気で伝わってくる。 諦めるしかないか… どうせちょっとの間だろうし。 「…分かりました。しばらく課長の家にお世話になります。」 ああ…、どうしてこんな目に…。 こんな事になるなら、引っ越さなければ良かった。 水漏れしたのが丁度寝室だと知った課長に今日から来なさいと言われ、とりあえず必要最低限の物を持ってお邪魔することになった。 「ここの部屋を使え。布団は客用の物を用意する。自由にしてくれて構わないが、俺の部屋にだけは絶対に入るな。」 「はい。」 そんなの当たり前でしょ。 他人の部屋を覗き見する趣味なんて私にはない。 課長が用意してくれた布団を、何も置かれていない部屋に敷く。 課長以外に住んでる気配が無いから、やっぱり独身で間違いないみたいだ。 恋人がいるって感じでもないよなぁ。 居たらきっと、自分の家に来いなんて言わないと思うし。 何で課長は、こんな広い家に1人で住んでるんだろう。 「ふぁ~…何だかドッと疲れちゃった…」 自分の部屋が早く直りますように。 そう願いながら眠りに就いた。 「えっ、1ヶ月ですか?!」 「配管の部品が古いから、取り寄せに時間がかかってしまうらしくてね。」 大家さんの話に、私は愕然としてしまう。 1ヶ月も課長の家にお世話にならなきゃいけないの…? いやでも、ホテルを選ばなくて本当に良かった。 どんなに安いホテルでも、1ヶ月となるとかなりの金額だもの。 一緒に説明を聞いていた課長も、流石にそんなにかかると思っていなかったのか、渋い表情をしている。 幸いにも濡れてしまったのはベッドだけだったから、部屋が直れば課長が新しくベッドを買い替えてくれるということになった。 古くなっていたから、ラッキーと言えばラッキー…? 家電や大きな家具はそのまま置いておいていいって言われたから、生活に必要な物や貴重品を課長の家に運び込むことにした。 まさかこんな短期間に、2度も荷物を移動させることになるなんて… 運び込んだ荷物で借りた部屋はパンパンだけど仕方がない。 1ヶ月の辛抱だと思って諦めよう…
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!