4話

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4話

「何もこんな日に…」 リビングで1人、思わず溜め息を吐く。 部長と一緒に得意先の接待へ行ってしまった課長は、21時を回ってもまだ帰ってこない。 明日から連休とはいえ、何も体調悪い日にそこまで頑張らなくても、と思ってしまう。 別に待ってる必要はないんだけど、やっぱり気になる。 だって半分私のせいみたいなものだし… 部長も一緒だから、さすがに倒れてるなんてことは無いと思うけど… 気になって、無意味に入り口を何度も見てしまう。 22時を回ろうかという時、玄関の開く音に気付いて思わず小走りで向かった。 良かった。 無事に帰って… 「課長?!大丈夫ですか!」 玄関の床に膝を付いている課長の姿。 やっぱり凄く体調悪かったんだ。 何でこんな無理して… 「はぁ…はぁ…んっ…」 「大丈夫ですか?とりあえず部屋に行きましょう。私に掴まれますか?」 何とかよろよろと立ち上がった課長を、精一杯の力で部屋まで運ぶ。 正直重い! 滅茶苦茶重い! 重いけど、とりあえずベッドまでは運ばなきゃっ…! 「ぐぬぬぬっ…」 ドアノブをなんとか下ろして、真っ暗な部屋の中に足を踏み入れる。 入るなって言われてたけど、そんな事言ってる場合じゃないよね。 「課長、とりあえずベッドに横に…」 寝かせようとベッドに触れた私の手に、何か柔らかい物体が触れた。 何だろ? でも今はそんなことに構ってられない。 何とか課長を寝かせて、部屋の電気を点ける。 「…えっ?!」 なにこれ…! 部屋の至る所に置いてあるぬいぐるみとフワモコグッズ。 そのどれもが、課長とは似ても似つかない可愛らしい雰囲気で。 家具やリネン類は男の人っぽいダークトーンでまとめられているだけに、可愛らしいぬいぐるみ達が余計に目立つ。 「ベッドの上にまでいる。さっき手に触れたのはこのクマちゃんかな。…もしかして。」 課長が部屋に絶対入るなって言ったのは、これを見られたくなかったからかな。 …きっとそう。 「今はそんな事考えてる場合じゃなかった。とりあえずジャケットぐらいは脱がせてあげないと。」 息の荒い課長は、グッタリしているせいで中々思うように脱がせられない。 「つ、疲れた…ベルトも、外してあげた方がいいかな。」 多分苦しいよね。 でも、ちょっと恥ずかしいというか… いや、相手は病人だし、課長だし。 なるべく意識しないようにベルトを外し、勢いでズボンのボタンも緩めてみた。 「とりあえずこれでよし。氷枕とか置いてあるのかな…」 急いで冷蔵庫に確認に行くと、流石課長というべきか、ちゃんとアイスノンが冷凍庫に準備してあった。 タオルを巻いて頭を冷やしてあげると、少しだけ気持ちよさそうな顔になる。 持っていた体温計で熱を測ってみると、39度を超える発熱。 こんな熱で、よくこんな時間まで接待頑張れたな。 根性? 「とりあえず…スポーツドリンクとか必要そうな物買ってこよう。」 コンビニで思いつく限りの看病セットを買って、急いで戻る。 お粥は作れるから、食べやすそうなアイスとかゼリーとかプリンとか。 …完全に私の好みだけど。 様子を見に課長の部屋に入ると、薄っすらと目が開いていた。 「気が付きました?気分どうですか?」 「園田…?」 「先に謝っておきます。緊急事態だったので、部屋に入らせてもらいました。すみません。」 「……」 そんなに表情を硬くする程入られたくなかったんだ。 というか、この子達を見られたくなかったのかな。 「その件については、後でいくらでもお叱りを受けますから。…夕食は食べてこられたんですよね?」 「…ああ。」 「じゃあ、薬飲みましょう。どこに置いてありますか?」 「リビングの…」 課長に教えてもらった場所から風邪薬を取って戻ると、服を着替えている最中で思わず後ろを向く。 「…園田。」 「は、はい。」 「悪いんだが…ボタン、閉めてくれないか。指が上手く動かない…」 「…分かりました。」 熱があるんだし、仕方がないよね。 「…失礼します。」 パジャマの隙間から見える体に、ドキドキする…。 いつもはスーツで見えないけど、課長意外といい体してるんだな…。 「…出来ました。横になる前に、薬飲みましょう。」 薬を飲んで、倒れ込むようにベッドに横になった課長は、まだ息が荒い。 かなり辛そう。 「これで下がるといいんですけど…」 「…迷惑をかけて、すまない。」 ちょっとシュンとしている課長なんて、滅多に見られない。 というか、見た事ない。 「飲み物はここに置いておきます。ゆっくり休んでくださいね。」 「ああ…」 「おやすみなさい。」 明日には良くなってるといいけど。 「…んん…」 ……あれ? 私… …そうだった。 あの後やっぱり気になって、しばらく課長の部屋に居て… そのまま寝ちゃったんだ、私。 ベッドに凭れて寝るとか本当にあるんだなぁ。 ん? 毛布がかかってる。 私こんなの… 「…起きたのか。」 「え?…課長、起きてたんですか?」 「さっきな。」 「体調はどうですか?」 「だいぶ楽になった。…それより、こんな所で寝てたらお前まで風邪をひくぞ。」 「私はこれのおかげで大丈夫ですよ。毛布、課長がかけてくれたんですよね?ありがとうございます。」 「…俺のせいで風邪をひかれたら困るからな。」 病人に気を使わせちゃって、申し訳ないな。 「何か食べられそうですか?食べられるならお粥作ってきますけど。」 「お粥…」 「あ、他の物の方がいいですか?一応食べやすそうなアイスとかプリンとかもありますけど…他のが良ければ、食べれるもの買ってきますよ。」 「…いや。お粥がいい。」 「じゃあ作って持ってきますね。それまでまたゆっくり休んでてください。」 課長が目を閉じるのを確認して部屋を出た。
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