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5話
「課長、出来ましたよ。起き上がれそうですか?」
「…ああ。」
「熱いので気を付けてくださいね。」
ベッドの上で起き上がる課長は、確かに昨日よりは体調が良さそう。
フラフラもしてないし、良かった。
「…ご馳走様。」
「全部食べられて良かったです。」
空いた器の代りに薬と水を手渡すと、ちょっと渋々飲んでいる。
本当は薬苦手なのかな。
「じゃあ私、これ片付けてきますね。」
「…なぁ。」
「はい?」
「どうして何も言わないんだ?」
「え?」
「この部屋の事。」
この部屋の事って…ぬいぐるみとかフワモコグッズ達の事?
「気持ち悪いと思わないのか?いい年したおっさんがって…」
「気持ち悪い?特には思いませんが…」
「…そうなのか?」
「別にいいんじゃないですか?確かに、課長がこんなに可愛い物が好きだったのは意外でしたし、驚きましたけど。」
そりゃあもの凄く意外で驚いたけど。
気持ち悪いとは思わないけどな。
好きな物は人それぞれだし。
可愛い物が好きっていう男性は、他にもいっぱいいるんじゃないのかな。
「…そう、か。…すまなかった、引き留めて。」
そう言ったきり、布団に潜り込んでしまった課長。
でも、潜り込む前に見えた顔は、どことなく嬉しそうに見えた。
その後、私の看病のかいもあって?課長の熱も無事に下がり、休み明けにはすっかり元の課長に戻っていた。
ただ、1つだけ変わったことがある。
「ご馳走様。今日も美味かった。」
「…それは、良かったです。」
「洗い物は俺がするから。お前は休んでろ。」
「え、でも…」
「…心配しなくても、これぐらいは俺にも出来る。」
「じゃあ…お願いします。」
汚れたお皿を持ってキッチンに行った課長は、きちんとエプロンをして洗い物を始めた。
お皿を洗う課長を不思議な気持ちでボーっと眺める。
あれ以来、何故か課長は外で食べてくる事がなくなったんだよね。
私の作った晩ご飯を、それ食べたいって急に言い出して…こうして一緒に食事するようになったわけだけど。
…何でこうなったんだろ?
食事を一緒にするようになって意外だったのは、課長が野菜が苦手ということ。
子供みたいな課長に、思わず笑ってしまった。
それでも、作った料理は残さずに食べてくれて、毎回美味かったって言ってくれる。
それが凄く嬉しい。
課長と一緒に食事をする時間を、いつのまにか楽しみにしている気がする。
「園田、ここ数字が間違ってるぞ。計算は慎重にやってくれ。大至急直してこい。」
「すみません、すぐ直します。」
「それから、この資料もまとめておいてくれ。」
「分かりました。」
ん…?
何だろうこの付箋。
”今日は接待で遅くなる。”
見慣れた課長の文字。
…そっか、今日接待なんだ。
じゃあ、晩ご飯1人か。
ちょっと寂しいな…
…って、いやいや待て待て。
最近課長と一緒にご飯食べてたからって、何寂しくなっちゃってんの。
相手は社内一厳しいと評判の上司だからね!
それにこの付箋。
他の人に見られて勘違いでもされたらどうするのよ。
…でも、本当はちょっとだけドキドキしてる。
まるで社内恋愛中の恋人みたいで。
「ただいま。」
「んん…あれ…私…」
「先に寝てて良かったんだぞ。」
「あ…テレビ見てたらついウトウトしてしまって。おかえりなさい、課長。接待お疲れ様でした。」
なんとなく部屋にいるよりリビングに居たくてテレビ見てたんだけど、まさか眠ってしまうとは。
「ああ、ありがとう。…そうだ。お前明日の休み予定あるか?」
「いえ、特にこれといった用事は無いですけど。」
「じゃあ、頼みがある。」
頼み?
「友人の結婚祝いを買いたいんだ。一緒に選んでくれないか。」
「私がですか?」
「ああ。女性目線でのアドバイスを貰えると嬉しい。」
「それは別に構いませんが、私にいいアドバイスが出来るかどうか…」
「お前ならどんな物を貰ったら嬉しいか、そういう意見でいい。」
「…分かりました。」
とは言っても、当然結婚したこともなければ同棲すらした事がないからなぁ。
そんな私にどんな意見が言えるのやら…
「…恋人はいないと言っていたが、お前は結婚願望とか無いのか?」
「無いわけではないですよ?私も一応女なので、愛し愛される男性と結婚して、平凡でも幸せな家庭が築けたらいいなとは思います。ただ、結婚は1人ではできませんからね…」
この数年彼氏どころか、いい雰囲気になる相手さえいないのだ。
もう最終手段はお見合いしかないかも。
「…どれくらいいないんだ?」
結構突っ込んでくるな…
「もう3年以上、ですね…」
「周りの男に見る目が無いんだな。…俺もその内の1人か…」
「え?」
「いや…まだ眠そうな顔をしてるし、早く寝た方がいいぞ。おやすみ。」
「おやすみなさい…」
何だかうまくはぐらかされたような気がする。
課長、何て言ったんだろ。
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