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6話
「これなんてどうですか?」
昨日約束した通り、課長と一緒に結婚祝いを買いにショッピングモールにやってきた。
お店で商品を見ながら、課長はう~ん…と唸っている。
「…案外悩むもんだな。」
「そりゃそうですよ。大事な相手なら尚更です。もう少し他も見ますか?」
「そうだな。」
こういう時、色々見て回れるショッピングモールは便利だよね。
移動距離も少ないし。
「ありがとうございました。」
深々とお辞儀をする店員さんにお礼を言って店を出る。
「無事に決まって良かったですね。」
「ああ。良いものが買えた。」
結局行きついたのは、結婚祝いの定番であろうペア食器。
ブランド物だから、気軽には使えないかもしれないけど。
「どうしてこれにしたんですか?」
「特別な日にこの食器を見たら、結婚した時の幸せな気持ちを思い出せそうって、お前言っただろ。そういうの、いいなと思ったんだ。…物には、良くも悪くも思い出や気持ちを蘇らせる力があるしな。」
「良くも悪くも…?」
「…それで、この後どうする?折角だし、色々見て回るか?」
「いいんですか?」
「ああ。お礼に荷物持ちでも何でもしてやる。」
さすがに課長に荷物持ちなんてさせられないけど。
「行きたいお店があるんです。」
課長を連れてやってきたのは、雑貨屋さん。
さっき前を通った時に、ヘアアクセが気になったんだよね。
「可愛い。」
「女は本当そういうのが好きだよな。」
「だって可愛くないですか?」
「着ける人にもよる。」
「…課長、それ遠回しに似合わないって言ってます?」
そりゃ確かに私は可愛くないけどっ。
もう若くないしアラサーだけどさっ。
…課長に言われるの、結構ショックなんだけど。
「そんなこと言ってないだろ。お前なら似合うと思ってる。」
「え。」
思わず課長を見ると、こちらを見つめる視線とぶつかった。
見た事の無い課長の甘い視線に、心臓がドキドキと早くなる。
何で、そんな目で…
「あ、あっちにも気になるお店があるんです。行きましょう!」
これ以上見られたらどうにかなりそうで、適当に入ったお店。
でも、ここに入って正解だった。
「これは…」
課長の好きなぬいぐるみやフワモコグッズが並んでいて、表情は変わらないのに目がキラキラと輝いてる。
本当に好きなんだな。
子供みたいで可愛い。
「これ、気持ちよさそうですね。」
「ああ、本当だ。どれ…」
実際に触って手触りを確認している姿は、真剣そのもの。
「う~ん…こっちの方が手触りがいいな。」
「違うものなんですか?」
「ああ。個体差があるんだ。」
真剣な表情でフワフワを触っている姿に、思わず笑ってしまう。
「…笑うな。」
「すみません…でも、課長可愛いなと思って。」
「お前の方が…い、いや。男に可愛いなんて誉め言葉じゃないだろ。」
「…?何慌ててるんですか?」
「…何でもない。」
あ、ちょっと拗ねてる…?
課長って意外と子供っぽい所あるよね。
会社で関わってるだけだと絶対知れなかった姿。
それを知れる事を、嬉しいと感じるなんて。
「よし。これにしよう。」
「買うんですか?」
「ああ。お前も触ってみろ。気持ちいいぞ。」
買うつもりらしい羊のフワモコクッションを触ってみると、サラサラなのにフワフワで何とも言えない気持ち良さがある。
「気持ちいい…」
「だろ?お前もいるなら選んでやるぞ。」
「じゃあ…お願いします。」
「よし、とっておきのを選んでやる。」
再び真剣に手触りを確認し始めた課長。
その姿に、胸の辺りが甘く疼く。
…私、課長の事好きなんだろうな。
だって、フワモコの手触りを真剣に確認する姿が可愛くて、愛しいと思ってしまってる。
こんな風に課長の事を思うようになるなんて、考えてもいなかったな。
「結構遅くなっちゃいましたね。」
「そうだな。疲れてないか?」
「大丈夫です。ショッピング久しぶりだったし、楽しかったです。」
「そうか。それならいい。」
課長と並んで歩く帰り道。
自然と歩いてくれる車道側と、結局持ってもらってる荷物。
私用の羊のフワモコクッションも、今日のお礼だと言われプレゼントしてもらってしまった。
「ちょっとレンタルショップに寄ってもいいか?」
「はい。良いですよ。」
丁度帰り道にあるレンタルショップに入ると真っ直ぐにDVDのコーナーへ。
何か借りるのかな。
「明日、久しぶりに家でゆっくりと映画でも見ようかと思ってな。」
「映画好きなんですか?」
「まぁな。…お前も一緒に見るか?」
「え、でも…邪魔になりませんか?」
「ならない。」
「…じゃあ、一緒に見たいです。」
「そうか。…お前は何が見たい?」
「えっと…」
課長と一緒に映画を選ぶ事があるなんて、ちょっと前の私ならきっと思いもしなかった。
しかも、それを嬉しいと思っているなんて。
明日、楽しみだな。
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