雨と記憶

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 思えば彼と出会ったときも雨が降っていた。  陽が落ちる直前のある公園。  夕立ちでもないのに、傘も持たずにぼんやりとしていた。    私はあまりにも雨が強いから、屋根を求めて公園に入って  最初は彼に気付かなかった。  見つけたときは驚いた。  引き返すこともできたけど、気になって声をかけた。  どうしたのか、何をしているのか。  訊いたけど、何も答えてくれなかった。  というより、答えられないようだった。  雨が小降りになったところで、私は彼を家に連れて帰った。  両親を亡くして以降、一人暮らしの家だ。  咎める人はいない。  その前に、放っておくことができなかった。  このままでは気持ち悪い。一人で帰るのは後味が悪い。  そして、心のどこかで寂しいと思っていた。  何も聞かないまま、日々を過ごす。  それは異常で危険なことだけど、日が経てば経つほど  彼の事情はどうでもよくなっていった。  彼が、少しでも元気になったらそれでいい。  抜け殻状態から脱したら  そんな願いを持って毎日を過ごしていくうち、本当に少しずつではあるけど回復していった。
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