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  「煙草……ベランダ行ってくる」 「体辛くない?ここで吸っていいよ?」 「家でもベランダで吸うし……室内は落ち着かん……」 「今度ボンボンベッドでも買っておくー」 「そんなリゾート感もレジャー感もいらんわ」  からりと開いた掃き出し窓からひんやりした空気が舞い込む。僕は片付けをしながらトオルの華奢な背中を見つめる。卒業後初めてデートした時、すっきりと短い襟足を笑った事をふと思い出して可笑しくなる。  学生時代の長い髪も大好きだったけど、僕は結局トオルがどんな見た目でもニヤニヤしてしまうんだろう。  咥え煙草で振り向いたトオルは、僕と目が合うと笑ってくれた。そして手摺りを背にして両腕を広げた。呼んでくれるなら行かねばなるまい。急いで手を拭いてベランダに出て抱きつくと、トオルは首筋にちゅっちゅっとキスしてくれる。 「髭剃って来るからもっかい抱かせてー」 「絶倫か。ちゅーか明日にせえ。酔っとるくせに」 「んー、手元狂うとマズイからトオルが剃ってー」 「……………」 「ねーねー」  借りて来た猫のようだったトオルは、何だかんだ言いながら一緒に風呂に入って髭を剃ってくれた。手先が器用なのは少しも変わってない。石膏製のイーサン・ハントに着色する時のように、繊細な指が上下するのを間近で感じられて嬉しい。 「今後僕の髭はトオルに任せるー♡」 「嫌じゃ。素面の時は自分でせえ」 「釣れない………」  それでもトオルは嬉しそうに僕の頬を撫でた。 「昔と変わらん」ってほんのり熱の入った目差しが扇情的でケシカラン。 「王子様になった?」 「なんじゃそら」 「お姫様抱っこしようか」 「あほう。ギックリ腰なっても知らんぞ」 「普段から重い木材と仲良くしてるもん。最近は大量のガラスブロックとも仲良しだからー。見てこの腹筋」 「酔っ払いの足腰なんか信用できるか」
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