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俺の職場、F市立大学。
デザイン科棟と建築科棟の間に佇む雑木林、通称『地蔵の森』には青春の象徴が眠っている。
ブナの樹洞に篏め込んだ石膏製のイーサン・ハントを刷毛で掃除しながら、ひび割れたアクリル絵の具の化粧に一抹の切なさが湧いて来る。
これを作った時、22才だった俺が36才。由一郎も。
お互いいいおっさんの俺達に明るい未来なんぞあるのかとは思うが、再会から数か月、帰って来るたび由一郎は暑苦しいほどのスパニッシュな愛情表現で俺を丸め込む。学生時代の比じゃないマジで。
自己否定がデフォルトで歪みまくっている自覚しかない俺を、無条件に全肯定で愛してくれる。
アイツの基本ラインで性善説を受け入れてしまえる性格は、上質な愛情を浴びながら育まれて来た結果だ。典型的なお坊っちゃん気質だ。昔はそれが羨ましくて妬ましくて、なのに好きで好きで─────悔しかった。
今は………由一郎が注いでくれる愛情とか優しさとか体温とか、そんな陽だまりみたいなフワフワホワホワの中で生かされている。
イーサン。
こんな俺でもこんなに幸せにして貰っていいんかな。
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