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  「なんじゃこのホテルみたいな部屋」 「ホテルのほうが機能的で落ち着くよねーごめんねー」  八年前、スペインへ渡る際にゲストルームにでもしてくれと片付けた実家マンションの自室はまるで生活感がない。  今は両親も京都から動けず、風を通すための不動産管理人みたいな役割を申しつかっている訳だけど。  トオルはまるで借りて来た猫のように所在なさげで─────可愛い♡ 「毎週毎週可愛い可愛い煩い。俺ら36のおっさんやぞ」 「僕にとってのトオルは例え還暦過ぎたって世界一可愛い存在だから♡」 「いっぺん死んでこい」 「口悪いなー。でもそこが好き♡」  トオルはいつも、僕の性格が変わったとか欧米化したとか文句を言う。あと、髭を剃れとも。会えなかった11年間でトオルの中の僕は理想の王子様化してしまったかーとは思うけど、残念ながら生身(リアル)の僕は熊化している。
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